「男塾」作者の高級車を無断売却|【高橋ユキ】のこちら傍聴席⑨
土地改良区の経理業務を担当していた元町職員が8月26日、横領の疑いで逮捕された。
楢葉町の元職員で秋田県井川町に住むアルバイト・遠藤国士容疑者(47)は2020年4月上旬から6月下旬ごろまで、管理していた農業団体の金融機関口座から二十数回にわたって計約523万円を引き出したとされる。「ギャンブルなどに使った」などと述べ容疑を認めている。
横領の逮捕報道を見るたび、容疑者らの心のうちを知りたくなる。「いつか必ずバレてしまうのでは?」と驚くようなことを実行してしまっているからだ。数年前に東京地裁で傍聴した「業務上横領」の被告人は「あとで金を渡せばいいや」といった軽い気持ちで犯行に及んだと述べていた。金に困った彼らの中には、〝あとでこっそり埋め合わせればバレないだろう〟……そんな気持ちから手を染める者もいるようだ。実際には埋め合わせできることはなく、時に遠藤容疑者のように、幾度も繰り返していく。気づけば、返すことのできない額に膨れ上がってしまう(※)。
※町土地改良区と町が遠藤容疑者に損害賠償を求めた訴訟では、昨年4月、賠償金計4187万円(遅延損害金等含む)の支払い命令が確定している。
東京地裁の事件は、自動車販売会社を手がけていた被告人が、過去の勤務先の顧客からイタリアの高級車・フェラーリを騙し取ったというものだった。その元顧客、つまり被害者は、かつて週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画『魁!!男塾』の作者・宮下あきら先生だったため、当時は大きく報じられた。
起訴状や証拠などによれば、被告人は2015年3〜4月ごろ、売却を斡旋する名目で、時価3300万円相当のフェラーリを騙し取ったという。宮下先生には一切の説明なく、フェラーリを預かったわずか3日後にヤフオクに出品。ほどなく落札され、購入者は被告人に合計3600万円を支払った。
いっぽう、被告人から連絡がないことを不審に思った宮下先生は、弁護士に調査を依頼。その過程において、被告人による無断売却を把握したという。
「かねてより被告人とは面識があった。3月に偶然会い、声をかけられたことからフェラーリの売却斡旋を依頼した。無断売却を把握したとき、すでに車は海外に輸出されていた。許しがたい。厳重に処罰してほしい」(宮下あきら先生の調書)
法廷で被告人は「被害者には悪いと思っています」と小声で述べたが「会社、ちょっと苦しいとこ、ありまして」と被害弁償ができていないことも明かした。「あとで金を渡せばいいや」と思っていたという。
検察官「相当高額なフェラーリを、被害者はあなたになぜ預けたと思いますか?」
被告人「信用してくれてた」
検察官「それを裏切ったんですね」
被告人「結果として……申し訳ない」
車を預かってからヤフオクに出品するまでの素早さから、裁判官は「元々、売却代金を騙し取ろうとしていた?」と尋ねたが「いやっ、そんなことない」と否定。だが会社が自転車操業であり、別の支払いに金が必要だったことは認めていた。
「被害者には本当に悪いことをした」。最後に言った被告人。その罪は山よりも大きく、海よりも深い……が、言い渡された判決は懲役4年。「経営する会社の資金繰りが逼迫する中での犯行だが、被害額も多額で悪質」と裁判官に指摘されている。
たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。
ニュースレター↓
月刊『政経東北』のホームページです↓
よろしければサポートお願いします!!