退職金-表のコピー

【福島】高すぎる知事・市町村長の退職金

「政治資金」「法定選挙費用」を公開する


市町村長などを取材すると、よく「財政的に余裕がない」といった話をされる。その一方で、知事・市町村長には多額の退職金が支払われている。 

知事・市町村長の退職金は、退任時の給料月額×在職月数(途中退任でない限りは48カ月)×乗率で計算できる。例えば、知事なら月額給料132万円×48カ月×乗率0・536で約3396万円となる。

 なお、内堀雅雄知事は給料を15%カットしており、現在は月額112万2000円。だが、退職金の算定に当たっては、カット前の金額(条例で定められている金額)の132万円がベースになるという。

 市町村長についても同様の計算式だが、市の場合は独自に条例を定めているケースが多く、乗率には若干のバラつきがある。今回の本誌調査では最小が郡山市の0・424、最大が南相馬市の0・5だった。

 町村の場合は福島県市町村総合事務組合に委託しており、乗率は一律に0・48。すなわち、給料月額×48×0・48で計算できる。なお、伊達市、本宮市、田村市など、いわゆる「平成の大合併」によって誕生した新市は同組合に委託している。

 別表は、知事と県内市町村長の退職金の一覧。各首長は、1期4年務めるとこれだけの退職金が支給されるのだ。

 知事の退職金は前述の通りだが、昭和63(1988)年から5期途中まで務めた佐藤栄佐久元知事の初期のころは、乗率は0・85で退職金は5000万円を超えていた。同氏の3期目以降、乗率が0・8、0・65と引き下げられ、現在は0・536。それでも、退職金は3396万円になる。

 市は、田村市が1628万円で最も低く、それ以外はいずれも2000万円を超えている。

 多い順に並べ替えてみる。

 ①南相馬市  2400万円

 ②須賀川市  2304万円

 ③白河市   2292万円

 ④いわき市  2273万円

 ⑤福島市   2262万円

 ⑥伊達市   2260万円

 ⑦二本松市  2234万円

 ⑧郡山市   2151万円

 ⑨相馬市   2127万円

 ⑩本宮市   2119万円

 ⑪会津若松市 2068万円

 ⑫喜多方市  2052万円

 ⑬田村市   1628万円

 こうして見ると、退職金と自治体の規模(人口など)は関係ないことが分かる。

 一方、町村は1200万円台から1900万円台とかなりバラつきがある。前述したように、町村は福島県市町村総合事務組合に委託しており、乗率は一律に0・48となっているから、ベース(給料月額)の違いがそこに表れている。

 多い順に並べると以下の通り。

 ①楢葉町   1972万円

 ②桑折町   1949万円

 ②川俣町   1949万円

 ④西郷村   1910万円

 ④矢吹町   1910万円

 原発事故からの復興を目指す楢葉町が最も多いほか、町の一部が避難指示区域になった川俣町も上位。周知のように、原発事故の避難解除区域は、住民の帰還が思うように進まず、大幅な人口減、税収減は必至の情勢。それでも、首長には多額の退職金が支払われているのだ。

 逆に、少ない順は以下の通り。

 ①矢祭町 1204万円

 ②鮫川村 1216万円

 ③会津坂下町 1283万円

 ④飯舘村 1483万円

 ⑤天栄村 1507万円

 『東洋経済オンライン』に「市町村長の『給料低い自治体』全国ワースト500」という記事が掲載されている(今年6月12日配信)。それによると、矢祭町は全国で26番目に給料が低く月額52・3万円、鮫川村が同29位で同52・8万円、会津坂下町が同47位で同55・72万円となっている。県内で50位以内に入っているのはこの3つで、当然、月額給料がベースになる退職金も、その順に低くなる。

 本誌は、今回の調査に当たり、全市町村に電話取材したのだが、矢祭町の担当者は町長(特別職)の給料月額に関して、住民の理解が得られる水準を意識している旨を語っていた。ちなみに、同町では議員報酬についても、日当制を採用することで年間100万円前後と、同規模自治体と比較してもかなり低い金額となっている。

 飯舘村に関しては、本誌6、7月号で、菅野典雄村長の復興政策について「ハコモノ整備ばかりが目立ち、村民の生活再建という部分に欠ける」と断じたが、その中で「高給取りの村長には村民の苦しみが理解できない」ということも指摘した。なお、同村長の給料月額は条例で定められた金額は80・5万円で、これをベースにすると退職金は1854万円だが、現在は給料を2割カットしており月額64・4万円。これをベースに計算したのが表に示した金額である。

合理性ない多額の退職金

 こうして見ると、市と町村、あるいは町村間でも、退職金に開きがあることが分かる。とはいえ、市長と町村長で、給料や退職金にそれだけの開きがある根拠はない。少なくとも、仕事の中身にそれを妥当と思わせるだけのものは感じない。

 そもそも、行政は生産性のある仕事ではない。税金を消費するだけの存在であって、その責任者がなぜ、それだけの退職金を受け取れるのか、理解に苦しむ。しかも、本誌がこれまで見てきた首長は、平準的な仕事をしてきたに過ぎず、全国の模範となるような行政を行った首長は記憶にない。おそらく、一部上場企業であっても、わずか4年間でそれだけの退職金が支払われるケースはほとんどないだろう。そこからしても、法外な金額ということができ、それだけの退職金を手にする合理性を見いだすことはできない。

 かつては、「選挙に膨大な費用がかかるため、そのくらいの退職金はやむを得ない」といった見方もあったようだ。しかし、いまは選挙運動費用の上限額(法定選挙費用)が定められている。

 これは公選法に基づき、各選挙管理委員会が定めるもので、例えば福島県知事選であれば「有権者×7円」+2420万円で計算でき、昨年の知事選では約3550万円だった。そのほか、福島市は2017年の市長選の際は約1860万円、町村部で直近(7月21日投開票)に首長選挙があった平田村では約180万円。選挙運動の費用はこれを超えることができない。

 このほか、選挙費用の公費負担もある。「選挙公営」と言われる制度で、これも公選法と各自治体の条例で詳細が定められている。目的は、財力によって選挙の公平性が損なわれることを防ぎ、立候補しやすい環境を整えることとされる。

 内容は限度額はあるものの、選挙カー(燃料代、運転手の人件費を含む)、ポスター、ビラ、ハガキなどの費用が公費負担される。ただ、町村部では同制度を採用していないケースもあり、前述した平田村では「採用していない」という。

 いずれにしても、こうした点から以前ほど選挙費用がかからなくなっているのは間違いない。

全額カットの事例も

 さらに、首長によっては政治資金を集めている人もいる。

 県選管が昨年11月に公表した2017(平成29)年分の政治資金収支報告書を見ると、現職首長関連の政治団体で1000万円以上の収入があったのは次の通り。金額は公表年度の収入総額で1000円単位切り捨て。

 内堀雅雄政策懇話会(内堀雅雄知事)         6956万円

 清水敏男連合後援会(清水敏男いわき市長)      2559万円

 品川まさと連合後援会(品川萬里郡山市長)      1692万円

 「こはた浩」連合後援会(木幡浩福島市長)      1480万円

 鈴木かずお後援会(鈴木和夫白河市長)        1057万円

 それぞれの直近の選挙は、内堀氏が昨年11月、いわき市が2017(平成29)年9月、郡山市が同年4月、福島市が同年11月、白河市が今年7月。選挙時期を見定めて政治団体の収支状況を確認すれば、ここで紹介した政治団体以外でも相応の収入があると考えられる。

 整理すると、現在は選挙運動費用の上限額(法定選挙費用)が定められていること、限度はあるものの選挙費用の公費負担があるところもあること、首長によっては政治資金を集めている人もいること――等々から、「選挙には膨大な費用がかかるため、そのくらいの退職金はやむを得ない」といった見方は当てはまらない。

 県外では退職金を全額カットした首長もいる。最初にそうしたと言われるのが宮城県の村井嘉浩知事。村井知事は2005(平成17)年の同知事選で初当選したが、その際、退職金廃止を公約に掲げ、実際にその通りの対応をした。これは全国初という。

 もっとも、村井知事が退職金を受け取らなかったのは1期目のみ。その後、村井知事は2009(平成21)年、2013(平成25)年、2017(平成29)年の知事選でも当選を果たしており、2期目は131万円×48×0・7で約4401万円の退職金を受け取った。

 3期目は乗率が0・7から0・65に引き下げられ、金額は約4087万円となっている。現在は乗率がさらに変わり、0・63となった。すなわち、このまま任期満了まで務めると、約3961万円の退職金が支給される。

 ただ、宮城県によると、3期目の分はまだ受け取っていないという。同県担当者によると「(3期、4期と)継続して在職しており、退任時にまとめて受け取ることも可能なため」とのことだった。

 そのほかで有名なのは、名古屋市の河村たかし市長。河村市長は就任後「市長等の給与の特例に関する条例」を制定、そこには「市長には退職手当を支給しない」と明記されている。加えて、同条例には市長の給料月額は50万円、期末手当は100万円とすることも記されている。

 ちなみに、もともとの条例に倣うと、同市長の給料月額は146・7万円、退職金の乗率は0・6となっているから、1期4年務めると、146・7万円×48×0・6で約4224万円が支給されるはずだった。同市(河村市長)ではこれを不支給としたのである。

 ほかにも、ネット記事やネット上の情報などを見てみると、首長の退職金を廃止、あるいは大幅削減したところはあるようだ。

 そこからすると、福島県内ではそうした動きは鈍い。財政難を嘆く前に、そういった部分を改める必要がある。


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