すり替わる「廃炉」の目的 ―【尾松亮】廃炉の流儀 連載21

(2021年12月号)

 福島第一原発の廃炉に向けた工程を定めた「中長期ロードマップ」は最新版(2019年12月改訂)まで計5回改訂されている。その改訂を通じて、初版ロードマップで示された目的が大きく変わっていることに注目したい。

 初版ロードマップ(2011年12月)では「住民帰還のために廃炉を完遂する」という方向性が示されていた。この初版は「避難されている住民の皆さまの一刻も早いご帰還を実現」(1頁)するために「溶け落ちた燃料デブリの取り出し」と「原子炉解体」も含む工程を40年で完遂する計画を示していた。

 もちろん、この初版ロードマップのスケジュール設定はかなり楽観的であったと言える。しかし初版ロードマップは、少なくとも「住民帰還のための廃炉」という明確な目的があった。「燃料デブリの取り出し」を「廃止措置に向けた必要な措置」と位置づけ、「一刻も早いご帰還を実現」するという「廃炉」の目的が示されていた。

 しかし、その後の改訂を通じてロ

ードマップにおける「廃炉」の内容は曖昧になっていく。ロードマップから「燃料デブリ取り出し終了時期」の記述が消え、「原子炉解体」を実施するのかどうかも不明な書きぶりに変わっていく。

 このような改訂を経て、中長期ロ

ードマップは「どんな状態を達成するために」「どんな作業をどこまで遂行するのか」をほとんど何も語らなくなった。その一方で、取り出すことができたデブリについては「容器に収納の上、福島第一原子力発電所内に整備する保管設備に移送し、乾式にて保管を行う」(最新版21頁、傍線筆者)という方針が示されている。

 デブリ取り出しは開始するが、すべて取り出し終えることは約束しない。取り出すことができたデブリは敷地内に建設する保管施設で管理し、そこからの搬出は約束しない。このような将来像が示唆されている。これが「住民帰還のための廃炉」だろうか、と疑問の残る内容である。

 そして最新版ロードマップでは突然、それまでなかった「復興と廃炉の両立」という大原則が打ち出されている。

 「周辺地域で住民帰還と復興の取組が徐々に進む中、『復興と廃炉の両立』を大原則とし、早期の復興に資するためにリスクの早期低減に取り組む」(2頁、傍線筆者)

 最新版ロードマップではこの原則を掲げるとともに、「すでに帰還した住民」と地域復興のための「廃炉」が語られるようになる。「廃炉」の目的が「住民帰還ができる状態の達成」ではなく、「地域復興への貢献」に置き換わっているのだ。

 ここでは「廃炉」の進捗状況にかかわらず「すでに帰還した住民」および新規に地域に進出する企業関係者らに便益をもたらす事業としての「廃炉」の意義が強調されている。最新版ロードマップ項目8では、「廃炉」を通じて地域に雇用や事業発注等の便益をもたらすこと、地域住民の不安を払拭する情報提供を行うこと、を重要課題としている。

 事故炉の後始末をどこまでやるのかを曖昧にした「廃炉」と両立する復興とは何なのか。曖昧な廃炉現場周辺でどんな「復興」を目指すのか、問う必要がある。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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