「地元の方々=東電」が決める? ―【尾松亮】廃炉の流儀 連載20

(2021年11月号)

 福島第一原発の廃炉は30~40年かかると言われてきたが、「どのような状態にしたら廃炉完了なのか」は決まっていない。「廃炉の最終的な姿」を誰が決めるのか。前回に引き続き、この問題を考えてみたい。

 東京電力廃炉推進カンパニー・小野明代表は「『廃炉の最終的な姿』はわれわれ一事業者が決められるものではない」と述べている(『AERA』2021年3月15日号)。それでは「誰が」その廃炉完了の姿を決めるのか。東電は「地元の方々をはじめとする関係者の皆さま」と相談しながら検討する、という。

 「事故を起こした福島第一原子力発電所の『廃炉』の最終的な姿について、いつまでに、どのような状態にしていくかについては、地元の方
々をはじめとする関係者の皆さまや国、関係機関等と相談させて頂きながら、検討を進めていくことになると考えています」(棒線は筆者による)というのが東電の資料における説明だ。

 しかし、ここで東電が言う「地元の方々」とは誰のことなのか。東電は、前に引用した説明で「地元の方々」の範囲を明示していないが、他の資料を見ると「地元の方々」の重要な構成員として東電自らを位置付けていることが分かる。

 2020年3月に東電が公表した資料『復興と廃炉の両立に向けた福島の皆様へのお約束』に注目してみたい。

 この「お約束」は「復興と廃炉の両立」というスローガンを掲げ、原発周辺に居住する東電社員や廃炉関連企業関係者が「地域の一員」とな
って「地域復興」に資する廃炉事業を推進する方向性を示している。

 この「お約束」が描く「復興と廃炉の両立」のビジョンにおいて、主要な役割を果たすことが期待されているのは原発周辺へ進出する事業者及び周辺地域に居住する東電社員である。そのことは同資料の次の記述から読み取ることができる。

 「事故以降、多くの社員が発電所周辺に居住しながら廃炉に取り組んでいます。私たちは地域の一員として、安全・安心に暮らせる地域を目指し、これからも全力で廃炉事業に取り組みます」(8ページ)

 「地元企業の皆さまへの積極的な発注に加え、廃炉に携わる企業・関係機関の皆さまに発電所近傍に進出いただき、地域の一員として力をお貸しいただきたいと考えております」(5ページ)

 つまり、発電所周辺に居住する多くの東電社員が、進出する廃炉関連企業関係者とともに「地域の一員」となるビジョンである。

 東電が、「廃炉の最終的な姿」を「地元の方々と相談しながら決める」というとき、想定している「地元の方々」とは誰のことなのか。「われわれ一事業者が決められるものではない」と言いつつも、結局は東電関係者が「地元の一員」として「どこまでやったら廃炉完了か」の決定に大きな影響を持つのではないか。 

 「事故炉の後始末をどこまでやるのか」という決定は、原発隣接地だけでなく広い地域の将来に影響を及ぼす。加害企業による「地元の方々と相談」などという曖昧なフレーズを簡単に認めず、県民投票や立法を通じて広く県民、そして国民が意思決定に参加する機会を作る必要がある。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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