佐々木朗希「米挑戦」への期待と課題|【生島淳】【スポーツ】東北からの声8
東北から生まれた投手がまた、太平洋を渡る。
23歳の佐々木朗希(岩手県陸前高田市出身)がポスティングを利用し、昨年12月10日からメジャーリーグの球団と交渉を行っている。交渉期限は日本時間1月24日の午前7時まで。契約は1月15日以降に結ぶとみられ、どのチームのユニフォームを着るのか注目される。
佐々木の日本球界でのハイライトは、2022年だっただろうか。4月10日のオリックス戦で13者連続三振(日本記録)を含む、19奪三振(日本記録タイ)。そしてこの試合で日本球界では28年ぶりとなる完全試合を達成した。そして次の登板となった4月17日の北海道日本ハム戦でも、8回までパーフェクト。17イニング連続でひとりの打者も許さない快投は、まさに圧巻だった。
一方で、佐々木には不安もつきまとう。
アメリカに渡るにあたって心配されているのは、シーズンを通して活躍した経験がなく、登板間隔が中4日、もしくは中5日となるメジャーリーグのローテーションに対応できるかということだ(日本では22年の129回3分の1が最多)。
加えて、日本は中6日が基本で、先発投手は自分が投げないカードの遠征には帯同する必要がない。ところが、アメリカでは全戦帯同が基本で、投げる予定がないカードでも、ダグアウトでチームメイトと一緒に時間を過ごす。つまり、先発投手としての時間の過ごし方が違うのだ。
2008年から14年まで、ロサンゼルス・ドジャースとニューヨーク・ヤンキースで活躍した黒田博樹は、経験談をこう話す。
「日本では先発した時に出た課題を、次のブルペンに入った時に調整し、クリアしてから次の先発に臨みます。自分の場合、メジャーに行ってからその調整法にこだわっていたら、疲労回復が追いつかなかった。自分はこだわりを捨て、登板後2日目のブルペンは軽い調整にとどめるようにしました」
日本で確立したルーティーンを捨てられる適応力。佐々木が新たな「流儀」を見つけられるか、彼の柔軟性が問われる。
そして私がもっとも心配しているのは、佐々木に「大一番」での経験が不足していることだ。ワールドベースボール・クラシック準決勝での登板経験はあるが、日本シリーズでの経験はゼロ。
振り返ってみれば、高校3年の岩手県大会の花巻東との決勝、夏の甲子園を懸けた大一番で、佐々木はマウンドに上がることはなかったことが、今にも影響している気がする。
私の個人的な見解だが、なにも故障がなかったならば、あの決勝戦で登板していれば、佐々木は投手として大きな財産を手にしていた気がする。チーム、いや、あの時は東北の三陸沿岸の人たちみんなが期待を寄せていたのだから。期待を背負って投げること、それは「エース」の成長を促す。もしも、あのとき投げてさえいれば……。
アメリカでは野球はビジネスといわれ、ドライな世界という見方もあるが、現実は違う。「行ける時に行けるヤツ」が尊敬を集める。
さて2025年、佐々木朗希はどんな成長を遂げるのだろうか?
いくしま・じゅん 1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大卒。博報堂で勤務しながら執筆を開始し、99年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る。最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川書店)。
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