【高橋ユキ】のこちら傍聴席19|あっさり閉廷する勾留理由開示
鹿児島県警の内部告発問題がいま、鹿児島県内のみならず、日本全国で大きな注目を集めている。この問題が全国的に知られることになったきっかけのひとつが、6月5日に鹿児島簡裁で開かれた元警視正の男(60)の勾留理由開示であろう。
職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕、送検されていた男は、勾留理由開示の法廷で容疑を認め、動機をこう明かした。
「本部長が県警職員の犯罪行為を隠蔽しようとしたことが許せなかった」
勾留理由開示というのは裁判所に対し被疑者や被告人が、その身柄を勾留されている理由を明らかにするよう求める手続き。公開の法廷で開かれる。刑事裁判は起訴された被告人に対して行われるが、勾留理由開示は被疑者であっても求めることができるので、傍聴人にとっては〝まだ起訴されていない被疑者が何を述べるか〟を知れる貴重な場でもある。
開示公判は勾留理由開示請求書が提出されてから5日以内に開かれる。一般の傍聴人がその日程を知ることは非常に困難で、たまたま裁判所にいる日に勾留理由開示公判があれば見ることができる。私がこれまで傍聴した開示公判は、たった数件だ。そのひとつを振り返る。
2012年7月。恐喝未遂で逮捕されていた女性被疑者の勾留理由開示。通常の裁判であれば検察官が最初に起訴状を読み上げるのだが、勾留理由開示公判は、最初に裁判官が、被疑者の身柄を拘束している理由を述べる。これに対する弁護側の求釈明を、裁判官が突っぱねて閉廷となる。何度か傍聴した感触から、勾留理由開示公判において、求釈明を受けた裁判官がその場で「では釈放しましょう」と決めることなどない。この日の法廷では、被疑者は自分が暴力団関係者だと匂わせ男性に金を要求しようとした疑いがあると裁判官が述べ、さらにこう続けた。
「相当の嫌疑があることが認められる。罪証隠滅のおそれについても相当な理由がある。前科前歴に照らすと、逃亡のおそれもある」
刑事訴訟法第60条1項にある勾留の理由を述べ、被疑者の身柄を拘束していることは正当であるという。弁護人は「罪証隠滅をうかがわせる理由がない」「離婚して一人で未成年の3人の子を育てなければならず、出頭を制約している」として「身柄拘束は自白を強要する目的があることが明らか」だと主張したが、陳述が終わるとあっという間に閉廷した。
ジャーナリスト、今井亮一氏が2013年に傍聴した勾留理由開示公判も同じ流れだった。覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕されていた被疑者は「私はゴミだとして、処理しといて、と預かっている。ぜんぜんそういう感覚(薬物を預かる)でいなかった」と陳述した。つまり意図的に所持したわけではないという主張だ。続けて弁護人も陳述したところで裁判官は、これに答えるわけでもなく「ハイ以上ですか? それでは以上で勾留理由開示の法廷を終わります」とあっさり閉廷を告げた。
今井氏はこう言う。
「弁護人がどんなに興奮しようが、被疑者が何を言おうが関係ない、刑訴法60条1項に定められたことを公開の法廷で言う、それが勾留理由開示なのだ、というところに徹しているのが、いっそ清々しい」
私も同じ思いを持った。
たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。
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