1年以上の長期停止が確実な増設焼却炉|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中53
今回は、フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)に設置されている雑固体廃棄物焼却設備(以後「増設焼却炉」)を取り上げます。
増設焼却炉については、当連載の第40・42回(注1)で触れました。
フクイチで増え続けている放射性固体廃棄物の大半は屋外保管です。保管容量・火災防止・飛散防止・働く人の被曝防護等の観点から、減容減量して屋内保管へ切り替えなければいけません。東電は、その為に必要な複数の設備をフクイチ内に設置し、運用しています(保管量や設備については「まとめ1・2」を参照)。
これらの設備の内、増設焼却炉が2024年2月に停止しました。運転再開まで長期間(恐らく1年以上)を要する見込みです。
原子力規制委員会での会議の資料や議論に基づいて、事象の概要等を大きく3つに分けて書きます(簡略化の為、箇条書きします)。
先ず、増設焼却炉の停止の経緯・再開見通しに関する東電の説明です。
①2月22日午前に、焼却予定の廃棄物(大半が木材チップ、その他は段ボール等)を保管している貯留ピットで火災報知器が作動
②ピット内は水蒸気がたちこめ、22日夜間に排気設備を作動させたが視認性の低さは改善せず
③23~25日にピットへ累計1200立方㍍を注水。ピット内の温度は低下し、廃棄物(高さ約4㍍・推定保管量約800立方㍍)はほぼ水没
④3月22日に水没した廃棄物の回収を開始(乾燥させ、専用容器に収納して一時保管)
⑤4月24日に水の回収を開始(移送先タンクを別途用意)
⑥5月27日に換気空調系等、可能な範囲から調査を開始
⑦廃棄物・水の回収は10月頃終了見込み
⑧ピットから周囲へ弱酸性の水が漏洩した。ピットのコンクリート躯体に影響した可能性が有る
⑨区画ごとに状況は異なるが、設備は被水し、タール状物質が付着している。運転再開には清掃・点検と、機器や制御盤の更新等が必要
⑩水・廃棄物の回収後に詳細調査を行い、復旧工事等の計画を策定する
⑪運転再開は2025年度半ばを目標。固体廃棄物の屋外保管を28年度内に解消する目標には影響を与えない
次に、火災報知器が作動した理由に関する説明です(尚、公設消防は「非火災」と判断しています)。
①チップ化した伐採木を屋外保管している間、チップに微生物等が付着した
②貯留ピットに搬入した木材チップを数メートルに積み上げて保管している間に、好機発酵(有酸素状態で微生物が有機物を分解する発酵。酸化反応による発酵熱を伴う)が起こり、水蒸気が発生。チップの深層部が蓄熱して酸素不足となった
③深層部で嫌気発酵(酸素に触れない状態で微生物が有機物を分解する発酵)が起こり、硫化水素が発生
④発酵熱の増大でピット内の温度が上がり、火災報知器が作動した
三点目に、今回の警報と停止を防げなかった理由に関する説明です。
①過去にも貯留ピット内で水蒸気の発生は確認されていたが、チップの攪拌(表層深層の入れ替え)で緩和できていたので、外部の専門家の意見を求める等の対応に至らなかった
②木材チップを長期間保管するリスク(発酵熱の蓄熱や硫化水素の発生、等)が増設焼却炉の設計・運用に反映されていなかった
要するに、設計段階から不備があり、「ゴミから水蒸気が発生している」のを見ても行動しなかったのです。
原子力規制庁は、増設焼却炉の火災警報と長期停止を重く見ているようです。7月16日の検討会(注2―1)では東電に「廃炉プロジェクトの進捗に支障を来す事象にも区分される」と指摘し、保安検査の結果として「(実施計画の)軽微な違反」と評価している旨を伝えました(注2―2)。この評価は、今後、原子力規制委員会へ報告されます。
東電の目標通りに運転が再開できたとしても、稼動率は「まとめ3」の通りです。増設焼却炉は、これまでにも計画外停止が相次いでいます。
固体廃棄物の保管管理計画(注3)に記載された「伐採木の屋外保管を2025年度に解消」の目標は達成不可能になりました。増設焼却炉の運転再開時期によっては「28年度に屋外保管解消」の目標達成も厳しくなるかも知れません。
最後に、見出しから外れることをご容赦下さい。
フクイチの「処理水」希釈放出(投棄)は、7月16日に累計7回目が終了しました。これまでに放出された水量・放射能量は別掲の通りです。
注1/第40回(2023年7月号)
第42回(2023年9月号)
注2―1/第113回特定原子力施設監視・評価検討会
注2―2/同検討会の資料1―2
注3/福島第一原子力発電所の固体廃棄物の保管管理計画~2023年度改訂について~
https://www.nra.go.jp/data/000463592.pdf
(23年11月に改定した内容の説明資料)