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曖昧になるデブリ取り出し終了時期 ―【尾松亮】廃炉の流儀 連載16


(2021年7月号より)

 福島第一原発では来年2022年中の「デブリ取り出し開始」を目指している。そして、この「取り出し開始」に向けたプロセスを「前に進めるため」として、政府はタンク貯蔵中の処理水を海洋放出することを決定した。

 住民や漁業者が強く反対する海洋放出を強行して敷地内スペースを確保し、「デブリ取り出しを開始」するというのだ。当然その先には「デブリをすべて取り出し終え、安全な状態で保管できる」未来が期待される。

 しかし、「デブリを取り出し終える」という確証も、法的拘束力のある約束もない。しかも、政府と東電の「ロードマップ」では改訂を経るごとに「デブリ取り出し終了」に関する記述が曖昧になっている。

 初版「中長期ロードマップ」(2011年12月)では、「20~25年後(2036年頃)」までに全機の「デブリ取り出し終了」を想定していた。この初版ロードマップでは、「全号機の取り出し終了時期については(中略)20~25年後と想定(取り出し期間:10~15年間)している」(20頁。棒線は本稿筆者による。以下同)と「取り出し終了時期」を示している。この「25年後デブリ取り出し終了」という記述は、少なくとも第2回改訂版「中長期ロードマップ」(2013年6月)までは維持されていた。

 しかし、2015年6月の第3回改訂版以降、「中長期ロードマップ」から「25年後」という「取り出し終了時期」の記述は見られなくなる。その結果、最新版の第5回改訂版「中長期ロードマップ」(2019年12月)では「取り出し終了時期」が不明である。そもそも、ロードマップ終了時点(2051年)までにデブリ取り出しが終了するのかも曖昧になっている。

 少なくとも、初版「中長期ロードマップ」は「40年後」までに4基の原子炉施設の解体終了を目指していた。「1~4号機の原子炉施設解体の終了時期としてステップ2完了から30~40年後を目標とする」(8頁)という記述は、そのことを明示している。

 しかし、最新版「中長期ロードマップ」では「廃止措置の終了まで(目標はステップ2完了から30~40年後)」(12頁)という記述にとどまり、この「廃止措置の終了」が「デブリ取り出し終了」や「原子炉解体終了」を含む状態であるかは示されていない。

 政府は「廃炉を前に進めるため」というフレーズで処理後の汚染水海洋放出を正当化してきた。 東電は「廃炉と復興の両立」をスローガンに掲げている。しかし、政府や東電が「福島第一原発の廃炉」と呼ぶ工程の先に「デブリ取り出し終了」や「原子炉解体」が約束されているわけではない。

 東京電力廃炉推進カンパニーの小野明代表は「『廃炉の最終的な姿』はわれわれ一事業者が決められるものではない」(『AERA』2021年3月15日号)と述べているが、「廃炉の最終的な姿」に関する記述はロードマップ改訂を重ねるごとに曖昧さを増しているのだ。

 「デブリ取り出し終了」も「原子炉解体」も明確に約束する意思がない工程なら、急いで前に進める意義は何なのか、問わねばならない。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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