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【尾松亮】燃料デブリは放射性廃棄物ではない?(下)|廃炉の流儀 連載53

 福島第一原発事故で原子炉内外に広がった溶融燃料(いわゆる「燃料デブリ」)。これは「放射性廃棄物」なのか? 「東電が廃棄しないなら放射性廃棄物ではない」というのが政府の見解であることが分かった。

 前号で紹介したとおり、「原子炉から燃料デブリが取り出せない等の理由により事業者が燃料デブリを処分する計画を示さない場合、『処分』する計画のない原子炉内に残った燃料デブリは法的に『放射性廃棄物ではない』、という理解になるか」という質問主意書に対して「福島第一原発の燃料デブリは、東京電力が廃棄しようとしない場合においては、放射性廃棄物に当たらない」と政府は答弁を示している。

 処分する場合にこの放射性廃棄物は政府が最終処分までの責任を負う「高レベル放射性廃棄物」(いわゆる核のゴミ)なのか、という問題についても「取り出してみてからどう処分するのか検討する」というのが政府の立場だ。

 つまり東電が処分せず燃料デブリを放置したとしても「処分しない場合は放射性廃棄物ではない」ということで責任を問われない。仮に燃料デブリの一部が取り出せたとして、その燃料デブリを国が責任を持って「核のゴミ」として処分するかどうかも「未定」だ。過酷事故を起こし、これまであり得なかった形態での溶融燃料とそれを含む大量のガレキを発生させた責任を誰も取ろうとしない姿勢が明らかになった。

 とはいえ今まで法律で想定していないような形態の溶融燃料含有物体が大量に発生しているのだから、位置づけが難しいという事情は理解できなくもない。この際に同様に大量の溶融核燃料に向き合わざるを得なかったチェルノブイリ、スリーマイルの場合の燃料デブリの位置づけをもう一度参考にしたい。(本連載第24回参照)

 チェルノブイリ(ウクライナ)の場合は燃料デブリ(溶融核燃料含有物)を法律で明確に「高レベル・長寿命放射性廃棄物」と位置づけ、その取り出しと管理・処分を政府の責任と規定している。「高レベル・長寿命放射性廃棄物」を管理できない状態で放置することは、ウクライナの環境法上認められない。

 スリーマイルでは事故後約11年かけてデブリを取り出し、地域外へ搬出した。この際、燃料デブリを「政府の研究機関が管理すべき物質」と位置づけ、研究目的という理由づけでエネルギー省が引き取る形をとった。事故当時、米国の法制では燃料デブリを放射性廃棄物として分類する規定がなく、取り出し後の燃料デブリの貯蔵や管理については法的位置づけが曖昧であった。1981年には米国原子力規制委員会(NRC)と連邦エネルギー省が覚書(MOU=memorandum of understanding)を締結し、スリーマイル2号機から取り出したデブリはエネルギー省の研究施設(アイダホ州)で引き取ることに決まった。

 どちらの事例にも共通するのは民間事業者に処分するか否かを丸投げせず、政府の責任で引き取ることを法律や合意文書で規定していることだ。「事業者が処分しないから廃棄物ではない」という日本政府のような言い訳は、ここでは通用しない。我々も燃料デブリの法的定義を求めなければならない。


 おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。

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