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【義母と娘のブルース】【桜沢鈴】なかなかのイナカ 奥会津移住日記⑦
(2021年11月号)
土地を守るということ
田舎に住む楽しみ、それは山菜採りや栗拾い、山の恵みを頂く事ではないでしょうか。
会津に住んで最初の秋、私は栗拾いにハマってしまった。
家の近くに立派な丹波栗の木があって、大きな栗の実がゴロンゴロン落ちているのだ。
栗料理もロクにできないくせに拾う楽しさのみで、毎日のように栗の木の下に通った。お友達が遊びにきた時は誘って一緒に栗拾いを楽しみ、村の方にも「こんなに拾ったよ!」と見せたりしていたのだ。
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この時は知らなかったのだが、この栗の木にはれっきとした所有者がいた。村の皆さんは所有者に断りを入れて、自分が楽しむ分をささやかに拾い分け合って楽しんでいたのだ。 これを知った時、本当に「あちゃー! やってしまった!」と、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
村の人は誰も私に注意する事なく、楽しんでいる様子を見守ってくれていたという訳だ。心の広いご近所さんに恵まれて私は本当に幸せだ。
私が奥会津に来たことによる大きな気づきの一つは、「山のどんなに荒れている土地でも誰かの持ち物で、自然に生えてるように見える木や山菜も誰かの所有物だったりする」ということ。
私だけではなく、多くの都会の人間は「山はパブリックスペースだ」と思いがちな気がする。
山の中で人が住める領域を維持していくのはとても大変である。だが、私は「先祖代々守って来た土地」なんて言葉に対し、「なんで土地を守らないといけないの?」と不思議に思っていた。土地っていうのはただそこにある地面の事なのに、それを守るとか守らないとか、こだわって子孫に受け継ぐ事を強制させるなんてどうかしている、とまで思っていた。
しかし、奥会津に住み、草刈りをやってもやっても次の週にはボーボーになってたり、変なところに生えた木を切ったり、動物や虫を追い払う毎日を過ごしていると、だんだん「土地を守っている!」という感覚が芽生えて来た。
なので、道路にゴミやタバコの吸い殻が落ちていると「なぜ、綺麗な空気と景色を楽しみに来ている人たちは足元を汚していくのだろうか」と以前よりも強く憤るようになった。
ついでに言うと、そのゴミを処理する能力も田舎は低い。ペットボトルや缶、瓶は1カ月に1回しか収集してくれないんだぞ!
さらに冬季は平気で4カ月間も資源ごみの収集が無くてずっと家で保管することになるんだぞー!
声を大にして言いたい。ゴミはお家に持って帰って捨ててくださーい! お願いします。
話を戻して、今年の秋もまた大きな栗がたくさん実った。
他の村人とバッティングしないようタイミングを見計らって栗を拾いに行く。誰かが拾った後でたくさん見つける事ができると、栗拾い名人になれた気がして楽しい。
私は拾った栗を所有者の所へ持って行き、「落ちてました」とお渡しした。
それから栗の皮むきのお手伝いをして、美味しい渋皮煮を分けていただいた。この土地を代々守って来た村の人と、そのご先祖様に感謝しながら、じっくり味わった。
さくらざわ・りん 大阪府出身。漫画家。7年前に会津若松市に移住し、現在は奥会津で暮らす。代表作『義母と娘のブルース』はドラマ化されて大ヒットした。
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