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【尾松亮】地方自治を破壊するデブリ受け入れ計画|廃炉の流儀 連載56

 11月7日、福島第一原発(1F)2号機で溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の試験的取り出しが完了した。東京電力は「放射線量測定の結果、敷地外への搬出は問題がない」と判断している。

 この燃料デブリは今後、どこに運び、どのように安全管理するのか? 試験的に取り出した燃料デブリの行き先については「今後、茨城県大洗町にある日本原子力研究開発機構の施設に運び、成分や構造を分析する」(朝日新聞2024年11月8日付)とされ、11月12日に運び込まれた。

 ここでいくつかの疑問が生じる。この「得体の知れない溶融核燃料物質」を受け入れる側の、茨城県や大洗町の住民は、どの程度この燃料デブリ受け入れ計画を知った上で、納得して受け入れているのか。

 そして、福島第一原発から大洗町までこの「得体の知れない溶融核燃料物質」を輸送することになるが、その輸送ルート上に位置する自治体はこの計画を知らされているのか?

 調べてみると大洗町の日本原子力研究開発機構の施設で燃料デブリの受け入れを開始するに当たって、法律や政令の改正は何も必要ない。2020年3月27日、同機構は核燃料物質使用変更許可を申請し、同年9月30日に原子力規制委員会に認められた。それにより、これまで計画になかった(そもそも世界に存在しなかった)「1F燃料デブリ」という特殊な物質の保管や分析ができるようになった。

 この「1F燃料デブリ」という核燃料起源の物質を扱う事業を開始するに当たって、設備や施設に関わる新たな認可や基準適合審査などは行われず、許可変更申請だけで認められた。使用済み燃料を貯蔵する施設を新たに稼働させる場合、原子力規制委員会の新たな許可が必要で使用済み燃料貯蔵施設に係るいくつもの規則が適用される。しかしある意味「使用済み燃料」よりもたちの悪い「成分や構成が不明な」核燃料デブリに対しては既存許可申請を修正すれば、受け入れ・貯蔵が可能になってしまうのだ。

 東京電力によれば試験的に取り出した燃料デブリは「重さを測定したところ、約0・7㌘だった」という。これほど微量なら安全上のリスクは軽微と判断したのかもしれない。使用済み燃料貯蔵施設と同様の規則を適用するには「ウラン及びプルトニウムの照射される前の量の合計が1㌧」以上となることが条件である。現状の受け入れ計画は90㌘までで、分析後1Fに戻すとされている。しかし今後も999㌔までなら現在の許可申請変更で受け入れ可能で、1Fに戻す期限も定かではない。本来は、茨城県や大洗町の住民を交えた合意が必要になる問題であるはずだ。

 燃料デブリについては「燃料組成が不明であるもの、化学的に活性な燃料である可能性、水素爆発の可能性があるものということを考慮して管理し、取り扱う」(JAEA・規制庁面談記録2020年3月27日付)とされている。つまり「組成不明な爆発危険性のある核燃料物質」とJAEAも規制庁も認めているのだ。

 既存施設の許可申請書を変更すれば、住民合意も無しにこのような物質の受け入れが決められてしまう。燃料デブリを巡る計画は民主主義と地方自治を破壊している。


 おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。

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