【新連載】横田一の政界ウォッチ①

古き自民党的選挙の実態



 世界最大級の「柏崎刈羽原子力発電所」(新潟県柏崎市)の再稼働に慎重な姿勢を取り続け、東京電力と対決した元新潟県知事の泉田裕彦衆院議員(新潟5区で落選・比例復活)が12月1日、古き自民党的選挙の実態を白日の下に晒した。“新潟のドン”こと星野伊佐夫県議から裏金(買収資金)の要求をされたと会見で暴露したのだ。

 岸田文雄首相の地元・広島県で起きた河井買収事件に似た金権腐敗疑惑だったことから、臨時国会代表質問で立憲民主党の西村智奈美幹事長が「広島における選挙違反の反省はないのか。自民党総裁として事実関係を調査し、国民に明らかにすべき」と岸田首相に迫った。政権を揺るがしかねない“爆弾発言”がさく裂した形となったのだ。

 泉田氏は会見2日後の3日、裏金要求をされた会話を録音した音声データも報道関係者に提供。星野氏の自宅で行われたという面談は、総選挙を翌月に控えた9月4日午前9時。次のような生々しい発言が音声データには残っていた。

 星野氏は泉田氏劣勢との世論調査結果を伝えた後、こう持ち掛けた。

 「とにかく必要経費を早くまこう。もう余裕がない。選挙が始まってからなんてバカはいない。今だ。今でも遅いぐらいだ。ここに2000万や3000万出すのにもったいながったら人生終わるよ。そこなんだよ」

 明らかに公職選挙法違反の買収罪に当たる発言だ。「当選を(得る又は)得させる目的で」「選挙人又は選挙運動者に」「金銭、物品その他の財産上の利益を供与すること」という成立要件を満たすからだ。

 泉田氏も違法性に気が付いていたようで、「違法行為にならないようにしないといけないので」と慎重な姿勢を見せた。それでも星野氏は、次のように畳み掛けていった。

 「そんなものはね、そんなものはね、いいですか、ハッキリ言うよ。言葉の問題だけであって、実際はそんなの気にして報告する者なんか一人もいないからね。それと、A君(録音では実名)はこれを使うの知っているからね。(摩擦音)よろしくお願いします。こうだからね、それはすごい」

 このA君は、現金供与によって泉田票上乗せが期待できる選挙区内の実力者とみられるが、この場面こそ、星野氏が買収資金の要求をしたことを物語るものだ。音声データに残る「摩擦音」が生じた時の仕草を、泉田氏は会見でこう再現した。

 「(星野氏は)『それと』と来て、大仏様の格好なのです。こんな感じ(泉田氏が指でカネを表すマルを作るポーズ)。そしておもむろに手帳を取り出して(泉田氏も手帳を取り出してテーブル上で差し出す)『どうぞ、よろしくお願いいたします』と(星野氏が発言)」

 手帳を札束に見立てて地元有力者に現金を渡す動作を星野氏が実演した光景が目に浮かぶ。動かぬ証拠とはこのことだ。「小選挙区で勝利するために裏金を渡して票の上積みをしよう」と星野氏が提案したに違いないと誰もが思うからだ。

 泉田氏は会見でこう締め括った。

 「お金で票を買うという行為は民主主義の根幹をねじ曲げてしまうことだと思う。選挙において金銭要求をしていく。これは、民主主義の土台を歪めていく。放置してはいけないというふうに考えています」

 泉田氏は2017年の総選挙で出馬する際、改革派経産官僚だった古賀茂明氏に「なぜ原発推進の自民党から出るのか」と詰問されたが、「与党でないと政治は変えられない」と反論、初当選した。議員になってからの原発問題の発信は乏しかったが、ようやく今回、政治とカネの問題で自民党政治を変えようと本格始動した。この告発を受けて、岸田政権(首相)や野党がどう対応していくのかが注目される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。


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