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【奮闘する人、傍観する人】郡山市長が中小企業に破産の勧め⁉

コロナに耐える人の神経を逆撫で

 郡山市の品川萬里市長が、新型コロナウイルスの影響で経営難に陥る中小企業に「破産も選択肢」と発言し、物議を醸している。

 その発言は4月30日、翌日に開かれる臨時議会に提出を予定していたコロナ対策関連の補正予算案を説明する記者会見で飛び出した。

 品川市長が補正予算の概要を一通り話した後、会見に出席していた記者たちが挙手して質問。その中の一人が、

 「市の施策は非常に考えられた内容だが、事業者の中には今すぐ手元資金が欲しい人もいる。そうした中で、行政が従来のやり方をしていたら(困っている人の)ニーズにこたえられないのではないか。ゴールデンウイーク明けには資金が枯渇し、廃業するところも出てしまうのではないか。そういったところへの支援は考えているのか」

 などと尋ねた。要するに、記者は支援のスピードが遅いと言いたかったようだが、この質問に品川市長は次のように述べて理解を求めた。

 「自助・共助・公助、そして最近は近助という言葉もあるが、経営者にはこれから自助の部分も考えていただくことが大事と感じています。市の施策は、国・県の施策に多少の上乗せ・幅出しをするものです。一方、日本の社会福祉制度にはセーフティネットに関するメニューもたくさんあります。破産というのは、昔は夜逃げの印象が強かったが、今は考え方が変わりました。リバースというか、再生のための一つのステップになっています」

 「地域差はあるかもしれないが、東京では破産手続きが迅速で、それが次のステップに早く進めることにつながっています。既にあるセーフティネットを存分に利用していただきたい。もちろん、そこ(破産)に至らないのが何よりだが、市としては保健福祉部を中心に『こういう手段もあります』と切れ目なく漏れなく皆さんに情報提供していきたい」

 この発言に違和感を覚えたのは本誌だけではあるまい。

 「会見を収めた動画を見た(同市のHPに掲載)」と話す同市内の社長は次のような感想を漏らす。

 「品川市長が言うように、経営者に『自助』が求められるのは間違いない。しかし、新型コロナウイルスを原因とする不景気は、経営者の自助ではどうやっても太刀打ちできませんよ。平時なら自助を発揮し、困難を乗り越える気力もわくが、このコロナ禍で安易に自助と言われると腹が立ちますね」

 事業者の中には、営業したくても行政からの自粛要請で休業せざるを得なかったところが多数ある。自助を発揮しようにも、できなかったのだ。もし自助を発揮するため、自粛要請に逆らって営業したら、それこそパチンコ店のように世間から激しくバッシングされただろう。

 要するに、自助とは平時に語られるべき単語で、自助を発揮できない緊急事態下においてはNGワードになるわけ。

増える〝あきらめ倒産〟

 同じことは、品川市長が発したもう一つの単語「破産」についても言えるだろう。

 経済団体で日頃から事業者の相談に乗っている担当者は、眉をひそめながらこう話す。

 「事業者は、いわば公共の利益を守るために休業したのに、その揚げ句、破産を勧められたら到底納得がいかないでしょうね。破産を勧めるくらいなら、行政は営業自粛した事業者に十分な補償をするのがスジだと思いますよ。最近は『破産=夜逃げ』から『再チャレンジ』という綺麗な言葉に置き換わっているが、そこから立ち直るのは昔も今も簡単ではありませんからね」

 某市議の評価も手厳しい。

 「普段から、こちらが首を傾げてしまう発言をすることが少なくないが、この状況下で『破産』と言ったのは明らかに不適切だ。そんな発言
をするくらいなら『国が』『県が』と嘆く前に市独自の施策を行い、地元事業者を支える姿勢を見せる方が先だと思いますよ」

 民間信用調査機関の帝国データバンクによると、今年の全国の倒産件数(負債1000万円以上)は7年ぶりに1万件を超す見通しだ。負債がなくても経営者が自主的に事業をやめる休廃業や解散も増加が見込まれ、こちらは2万5000件に達するとしている。

 事業者は昨秋から消費税増税と台風19号被害に直面し、かつてない暖冬も消費を後退させた。そこにコロナ禍が直撃し「これ以上借金しても売上回復が見込めない」と事業継続を断念する〝あきらめ倒産〟が徐々に増えている。

 様々な困難を乗り越えなければならないのは、どの経営者も同じだ。しかし、こと新型コロナウイルスに限っては自助努力でどうにかなるものではない。言い方を変えれば、新型コロナウイルスが原因で経営破綻するのは、経営者からすると受け入れ難いこととも言える。だから、行政のトップがこのタイミングで「破産も選択肢」と発言するのは適切ではないのだ。

 果たして、当の品川市長はどういう意味で「破産」という単語を口にしたのか、直接尋ねてみた。

 「つい先日もアパレル大手のレナウンが経営破綻したが、あれも日本のセーフティネットにおける一つの再生への位置付けなのです。もっと言えば、周りが『あの会社は破産したんだね』とマイナス評価をしてはいけない、と。例えば、生活保護だって憲法にきちんと定められた生活受給権であり、国民の正当な権利なのに、それを使うことに世間はマイナス評価をしているのが現実です。失業保険もしかりです。しかし本来の姿は、破産しても、生活保護を受けても、失業保険を受給しても、それをステップに国民が再生を図ることであり、そのためにも用意されたセーフティネットは有効に使うべきだと思うのです。M&Aだって昔は身売りや救済などと後ろ向きに捉えられる面があったが、今は『やり方によっては成長が見込める』とか『優れた技術がほしい』という理由から前向きな手段と位置付けられています。すなわち破産も同じだという意味で、私は記者にそう述べたにすぎず、他意はありません」

 品川市長なりの考えがあったことがうかがえるが「コロナが原因で破産するのは悔しい」「破産を勧める前に、営業自粛に応じるからきちんと補償してほしい」と考える事業者に思いを馳せることも、行政のトップとして必要だったのではないか。


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