【福島県・新型コロナ特集】無症状感染者は濃厚接触者なし!?
専門家も疑問視する福島市の判断
新型コロナウイルスの厄介なところは、無症状の病原体保有者が、自覚がないまま感染を拡大させてしまう可能性があることだ。ところが、福島市では「PCR検査で陽性反応が出たが、無症状だったので濃厚接触者はゼロとみなす」として、周辺の人への検査を実施しない考えを示した。そのため、ネットなどでは疑問の声が飛び交った。
4月12日、福島市の福島わかば保育園に通園している園児が新型コロナウイルスに感染していることが判明した。県内初のクラスターとなった二本松郵便局内で感染した職員の子ども。症状は出ていなかったが、濃厚接触者としてPCR検査を実施したところ、陽性反応が出た。保育所内ではマスクを着けておらず、二次感染が心配された。
同日、木幡浩福島市長が記者会見を開き、その様子が動画サイトを介して配信された。その中で視聴者を驚かせたのは、「無症状で、検出されたウイルスも少量だったため、同園に通っていた園児60人と保育士21人は濃厚接触者とはみなさず、PCR検査も実施しない。健康観察をしながら様子を見て、4日間の自主休園を経て再開する」という同市(保健所)の方針だった。
無症状の病原体保有者(無症状者)とは「症状が出るほどではないが体内にウイルスを保有している人」のことを指す。体内のウイルスが増殖すれば発熱やせきなどはっきりした症状が出てくるイメージだ。
ただ、新型コロナウイルスの場合、それほど増殖していない状態でも感染力は有症状者と大差ないとされており、最近の研究では、むしろ発症直前の無症状者の感染力の方が高いことも分かっている。
それなのに同市は「無症状だったので濃厚接触者はいない」と判断したため、動画サイトのコメント欄やSNSでは疑問の声が相次いで投稿されたのだ。
県立医大教授(感染制御学)で、県の感染症対策アドバイザーを務める金光敬二教授によると、PCR検査の処理能力、感染者病床数には限りがあり、さらには検査時に無症状でもその後発症するケースがあることを踏まえ、有症状者を優先して検査する傾向があるという。そのため、市の判断に関して疑問を呈しつつも一定の理解を示した。
一方、「福島市の判断は間違っている」と語るのは、岩手県宮古市で内科医院を営む熊坂義裕・盛岡大学客員教授だ。2009(平成21)年には宮古市長として新型インフルエンザ等対策行動マニュアルの策定に当たり、また日本感染症学会認定医だったこともあることから、感染症対策に詳しい。
「感染症対策において、陽性者の近くにいたり長時間一緒にいた人は濃厚接触者とするのが原則で、国でもそのように定義しています。私が市長なら間違いなく閉園し、園児・保育士に2週間の自宅待機を要請して、経過観察します」(熊坂教授)
国立感染症研究所感染症疫学センターは濃厚接触者の定義について、患者が発病した日以降に接触した者のうち、①同居あるいは長時間の接触があった者、②手で触れたり対面で会話することが可能な距離で、感染予防策なしで、接触があった者――などと定めている。
また、無症状者に関しては、「検体採取の時期や疫学的な情報、今後の発症の可能性、接触者に感染させた場合の影響の大きさを評価し、接触者調査の実施を個別に判断する」(要約)としている。
市(保健所)ではこれらの定義を都合よく解釈し、「無症状だし接触者調査は不要だろう」と判断したのだろう。しかし、そうした解釈は感染症学の原則から考えて誤りである、と熊坂氏は指摘しているわけ。
「感染症学的に疑問」
仮に園児と保育士約80人を全員PCR検査すれば、県内の検査の枠をかなり圧迫し、検査を受けられない人も出ることになるが、熊坂教授は「それでも全員の検査をやるべきだった」と主張する。
「検査はたとえ〝空振り〟でもいいからやるべきで、やらないで後から感染者が発生する方が大きな問題につながる。感染症学的には疑問を呈さざるを得ません」(同)
ちなみに県内PCR検査態勢は4月20日現在1日最大150検体(概ね150人分)となっており、今後は270検体態勢に拡大する予定となっている。福島市保健所だけでなく県衛生研究所、郡山市保健所などに支援を求め、分担して検査を実施することは可能だったはずだ。
4月14日の朝日新聞県版では、愛知県立大の清水宣明教授(感染制御学)も「PCR検査で検出するウイルスの量にはブレが大きく、症状がなくても感染を広げる恐れはあり、知らぬ間に感染が拡大するため、むしろ危険だ」と指摘し、熊坂教授同様、「少なくとも2週間は休園にした後、すべての園児にPCR検査を行うべきだ」と述べていた。
結局、同保育所は保護者から不安の声が出たことを理由に4月23日まで休園を延長。さらに緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大されたのを受けて、県内の全保育所が休園となった。保育園児に感染が拡大していくのではないか、という不安はひとまず解消された格好だ。
しかし、まだまだ新型コロナウイルスの収束見通しが立たない中で、再び今回と同じような事態が発生することは十分あり得る。
福島市は「園児の健康状態などから総合的に勘案して、他の園児や保育士は濃厚接触者に当たらない」という見解を示していたが、なぜ感染症学的に非常識な判断をしてしまったのか、専門家の声を踏まえてあらためて検証し、内部で議論していく必要があるだろう。
また、今回の件は陽性者の近くにいた人ですらPCR検査をスムーズに受けられないという課題も浮き彫りにした。PCR検査を受ける際のハードルが異常に高いという問題は全国的なもので、熊坂教授も「私の医院の患者でも『PCR検査をやった方がいい』と要請した人がいたが、保健所に断られるケースがあった」と語る。
「保健所としては検査をする際に防護服を着用するなど負担が大きいので、できることなら様子を見てもらいたいのでしょう。しかし、感染拡大が止まらず市中感染も相次いでいることを考えると、検査態勢をさらに強化し、不安がある人もできる限り検査が受けられる態勢を築いていくべきだと思います」(熊坂教授)
実際、現在はPCR検査を拡充する流れになっており、4月17日には東京都医師会が都内に最大47の地域PCRセンターを設置すると発表した。また、厚労省もいわゆる「ドライブスルー検査」を4月中旬になってようやく追認した。今後は陽性者の近くにいた人や体調を悪くして不安を抱いた人は、気軽に検査を受けられる態勢を国や行政が構築すべきだろう。県内でも約25%の感染者が感染経路不明となっている中で、感染経路をたどって拡大を抑える方式にはさすがに限界がある。
いずれにしても、緊急事態だからこそ行政には市民の不安に寄り添った対応を求めたい。
※国立感染症研究所は4月20日、濃厚接触者の定義のうち接触時期・距離・時間を更新し、①感染者が発症する2日前から、②手で触れることのできる距離(1㍍目安)、③マスクなしで15分以上接触があった場合、とした。
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