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【尾松亮】廃炉の流儀 連載6-「廃炉後」の地域を考える

「廃炉後」の地域を考える

 ここに一枚の写真がある。これは1997年に閉鎖したメインヤンキ
ー原発(アメリカ合衆国メイン州リンカーン郡)「廃炉後」の姿である。

 1990年以降メインヤンキー原発では設備故障が相次ぎ、1997年に運転事業者が廃炉を決定した。同原発では1997年の完全閉鎖後、1997~2005年の期間に廃炉プロジェクトが実施された。使用済み燃料は敷地内の保管施設(写真)に移され、原子炉を含む施設の解体撤去は完了している。米国原子力規制委員会(NRC)の基準では、メインヤンキー原発自体は「廃炉完了」と認められる。施設の解体撤去後、敷地の汚染レベルが規制基準以下となれば「規制の必要な原子力施設」ではないからだ。

廃炉の流儀写真 (2)

メインヤンキー原発使用済み燃料保管施設(Maine Atomic Power Ccmpany 公式サイトより)

 しかし閉鎖から20年以上経過した2020年現在でも、立地自治体ウィスカセット町は使用済み燃料を保管している。廃炉中に建設された乾式保管施設には542メトリック㌧の使用済み燃料が残る。政府がネバダ州に建設を検討してきた「放射性廃棄物処分場」の計画は進まず、「廃炉後」も使用済み燃料の持ち出し先がない。

 使用済み燃料が残ったまま「廃炉完了」というのは奇妙に思えるかもしれない。しかし米国の規制基準上は、「使用済み燃料保管施設」を残したままでも原発跡地の解放・再利用を認めることができる。「廃炉完了」は立地自治体からの使用済み燃料完全撤去を保証するものではないのだ。メインヤンキー原発はすでに電気も廃炉事業収入も生み出さない。そして使用済み燃料保管施設が隣接する原発跡地に、再開発のための投資を呼び込むことも簡単ではない。ウィスカセット町にとっては使用済み燃料保管のリスクと負担だけが残っている。

 日本でも浜岡原発や伊方原発など、廃炉決定後の原発敷地内に「使用済み燃料保管施設」を増設する動きがある。廃炉が決定した福島第二原発でも使用済み燃料乾式保管施設の建設が検討されている。資源エネルギー庁の資料ではサイト内乾式保管について「あくまで一時的なものであり、使用済み燃料が永遠にサイト内に貯蔵されるわけではありません」と述べられている。しかし日本でも最終処分地が決まる見通しはなく、各地の原発で生じた使用済み燃料全てを受け入れる集中保管施設もない。米国同様の廃炉基準を採用するなら、将来日本の立地自治体もウィスカセット町同様に「使用済み燃料保管施設」を残したまま「廃炉完了」を迎えることになりうる。

 考えたくない将来像ではあるが、ウィスカセット町のような自治体の負担をどう軽減するのか日本でも今から議論しなければならない。次号では米国で進む「使用済み燃料保管施設」立地地域に対する支援策策定の取り組みを紹介したい。


おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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