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【高橋ユキ】のこちら傍聴席24|獄中からの“衝撃告白”に翻弄

 本連載は、タイトルにもあるように裁判の傍聴取材で得た話を中心にお届けしてきたが、私は傍聴だけをしているわけではない。事件の起きた地域で、人々に話を聞くこともある。獄中の人物に取材を行うこともある。先日、私のその獄中取材がクローズアップされた出来事があった。

 2006年に兵庫県たつの市において小学4年生の女児が刺され重傷を負った殺人未遂事件は長く未解決だったが、18年後の昨年11月7日、容疑者逮捕という大きな動きを見せた。逮捕された勝田州彦(45)は、04年に岡山県津山市で起きた女児殺害事件(以下、津山事件)で18年に逮捕され、23年に無期懲役の判決が確定。今回の逮捕当時は服役していた。またこの時、兵庫県加古川市で07年に小学2年生の女児(7=当時)が刺殺された事件も認めていた。

 兵庫県での2件の未解決女児殺害・刺傷事件を突如認めたという大ニュースは、勝田容疑者がたつの市事件で逮捕される前日、神戸新聞がスクープしていた。だがその前に、私はこれを知っていた。なぜなら、勝田容疑者が私に送ってきた手紙に、その旨を書き記していたからだ。

 勝田容疑者とは、津山事件の一審公判が行われている2021年11月から文通を始めていた。私が聞いてきたのは、津山事件での勝田容疑者の主張だった。兵庫県の事件に関与しているのでは? など聞いたことはなかった。にもかかわらず昨年8月、手紙で突然、たつの市の殺人未遂事件を認めたのである。その日の手紙は、いつものように事務連絡から始まり、続けてこう書かれていた。

 〈大事件ですっ!! また逮捕されそうですっ。少し前の5月下旬から、兵庫県警察が、アタクシのところに突如来て、平成18年9月28日に兵庫県たつの市で発生した殺人未遂事件のことで取り調べを受けているのですっ。〉(勝田容疑者からの手紙。以下〈〉内同)

 津山事件を認めていなかった彼が、別の事件を認めるわけがないだろうと思っていたのだが、手紙はこう続いていた。

 〈まぁ、自分でした事なので仕様がないのですが、あと10年程刑期が追加されそうです。〉

 翌月に届いた手紙には、加古川市の殺人事件についても認めた。

 〈どちらも自分がやった事なので、この前刑事に自供したんですよ。〉
 その上、長年否認していた津山事件までも〈ワタクシがやったんですよ。嘘をついていて、たいへん申し訳ありませんでした。本当にごめんなさい、です。〉と認め、〝これまで嘘をついていた〟ことを謝罪した。

 衝撃の告白であることは確かだったが、私はこれを、神戸新聞のスクープまで公にしなかった。津山事件でも、一度は認めていたものの、証言を翻し、否認したという経緯があった。また今回も証言を二転三転させ、逮捕に至らない可能性があることを懸念した。逮捕された今、これが〝衝撃の告白〟であると分かったが、現実は映画やドラマのように感動的なものではない。後悔や反省などが見えるわけでもないし、手紙に涙のあとがあるわけでもない。ただ淡々としていた。

 結果的に勝田容疑者は逮捕に至ったが、12月現在、加古川の殺人事件について黙秘している。津山事件について〈今後詳しく正直にお話ししますね。〉と記した彼の言葉をまた聞ける日はいつになるのか。

たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。

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