まず耐震性調査と安定化が必要―【尾松亮】廃炉の流儀 連載35
東電は昨年5月17〜23日、福島第一原発1号機の原子炉格納容器内に水中ロボットを入れ、原子炉圧力容器を支える円筒形の土台「ペデスタル」の外側を撮影した。その映像を分析したところ、ペデスタルの点検用の開口部付近で厚さ1・2㍍のコンクリートの一部がなくなり、鉄筋がむき出しになっていることが判明した。
ペデスタルとは、原子炉圧力容器を真下で支えているコンクリート台座である。これは原子炉圧力容器を下から支える唯一の構造物だ。その台座の鉄筋コンクリートのコンクリート部分がなくなって、鉄筋だけがむき出しになっていることが撮影調査で明らかになった。
調査では台座の4分の1程度の範囲しか見ていないため、「全周にわたり、コンクリートがない可能性もある」と資源エネルギー庁の担当者も認めている。そして5月26日の記者会見でエネ庁の担当者は「相当広い範囲で鉄筋だけになっている。耐震評価をやり直す必要があり、現段階では『安全』とは言えない」と危機感を露わにした。(2022年5月28日付朝日新聞)
原子力規制委員会の更田豊志委員長(当時)は5月25日の記者会見で、「耐震性が心配だ。どの程度損傷したら何が起きるのか、議論しておいた方がよい」と指摘した(2022年5月26日付読売新聞)。
そして更田氏は「改めて大きな地震に襲われた時に、評価通りに(土台が)持ってくれるのか」、「ペデスタルの強度が失われた時に何が起きるのか、検討はしておくべきだ」と語っている。
台座が損傷したまま大きな地震に襲われ、事故で損傷した原子炉が傾く、下方に落ちるという事態になれば何がおきるのか。専門家は、高レベルに汚染されたダストが環境中に放出される、原子炉圧力容器の真横に位置する使用済み燃料プールが損傷する、などの可能性を指摘している。圧力容器から溶け落ちた燃料デブリの取り出しが、現状よりもさらに難しくなるのは明らかだ。
本来であれば、資源エネルギー庁や前規制委員長も求める「耐震評価のやり直し」に早期着手し、あらゆる事態への対策を急がないといけない。昨年5月の時点で耐震性再評価の必要性を指摘されながらも、現行の東電のスケジュールでは損傷したペデスタル「内部」の調査を行うのは今年3月以降とされる。3月に予定通り調査が実施できたとしても、その結果を踏まえた耐震性の再評価はさらに先になる。
2号機でも、ロボットアームの不具合でデブリ取り出しは再度延期された。今行うべきは、「廃炉を前に進める」ふりをすることではない。事故でダメージを受け、さらに10年以上経過して劣化している1F施設の耐震性や環境汚染リスクについて、まずできる限り正確な評価を行うこと。そして大規模地震や津波に際しても、事故再発や環境汚染拡大を防ぐための対策の強化に注力する時期をもうけるべきではないか。
これは将来的な廃炉完了を諦めるということではない。その大前提となる安定化の段階が必要だということだ。必要な調査や安定化措置に時間がかかるなら、その分長期間の廃炉に向けた計画を法制化し、政府と東電に義務づけねばならない。
おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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