【政経東北】首長とハラスメント|巻頭言2024.10
斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラ問題が世間の注目を集めている。遠く離れた福島から、知事の人物像をよく知りもしない筆者が論じるのは控えるが、斎藤知事の「東大卒の元官僚」という経歴に着目すると、県内にも該当する首長が結構いることに気付く。
現職では内堀雅雄知事、木幡浩・福島市長、品川萬里・郡山市長。引退した人では白井英男・元喜多方市長が思い浮かぶ。仁志田昇司・元伊達市長は官僚ではないが国鉄に就職した。
彼らにハラスメント気質があるかどうかは分からない。ただ、見聞きした中には「部下の答弁を遮って自分が答え出す」とか「夜中でも休日でも携帯メールでどんどん指示を出すから、部下は気が休まらない」とか「自分と考えを異にする人とはまともに口を利かない」など疑わしい事案が含まれる。
今も続いているとすれば問題だが、職員は不満に思っても我慢するしかない。いくら相談窓口や通報者を守る法律があっても、人事権を持つ首長に盾突くのは相当な覚悟と勇気が必要だからだ。
県外で首長を務めた経験のある人からこんな話を聞いたことがある。「自分の考えが必ずしも正しいとは限らないから、身近に諮問機関のようなものを置いて意見を求めるようにしていた。私も人間なので、言われる内容によってはカチンとくることもあったが、あとから冷静になると、なるほどと思えてくる」。首長には最終判断を下す責任があるので「自分の考えが間違った方向に行かないための措置だった」と、その人は振り返る。
東大卒なら学生時代は抜群に勉強ができただろうし、官僚時代は優秀な人材に囲まれていたはずだ。そういう人が首長に就いたら、自分より頭の良い人はいないし、部下の能力も物足りないだろうから、自分がやるしかないという感覚に陥っても不思議ではない。前述のハラスメントと疑われる事案は、こうした背景があって起こるのではないか。
県内では一時期、県議出身の首長が増えた。時代を経て、今は「東大卒の元官僚」以外にも、高学歴で役人出身の首長をあちこちで見掛ける。どちらが有能なのかは比較が難しいが、これからは、そうした表面的な経歴より、他者の意見に耳を傾けられる人かどうかが選挙における投票の判断材料になっていくかもしれない。
端的に言うと、他者の意見を聞ける人はハラスメントをしない。ただし、聞きすぎて優柔不断になれば、最終判断を下せなくなることも忘れてはいけない。次代のトップに求められる姿勢だ。(佐藤仁)
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