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【尾松亮】廃炉の流儀 連載9-廃炉中の防災体制、前もって議論を

 廃炉決定後の原発周辺地域で住民を守る地域防災体制はどうなるのだろうか。

 2016年4月に米国原子力規制委員会(NRC)の決定で、廃炉中のバーモントヤンキー原発周辺16㌔圏「緊急時計画ゾーン(EPZ)」が撤廃された。原子炉からの使用済燃料搬出が完了し「事故リスクは減少した」との評価に基づく決定である。これに伴い、事業者が周辺地域に支払う「緊急事対策費用」も免除されることになった。

 しかし、使用済燃料がプールに移された後も、廃炉中原発で燃料損傷等の事故リスクは残る。周辺地域の代表者らは、事業者やNRCによる防災策縮小に抗ってきた。

 バーモント州政府は事業者Entergyと協定を結び、同社が2018年まで非常事態対策費用(計60万ドル)を支払うよう義務付けた。さらにバーモント州政府の担当者は、事業者に放射線モニタリングの長期継続を要求している。

 連邦議会でも、廃炉中原発周辺地域の防災縮小に歯止めをかける立法の取り組みがある。2018年にはバーモント州選出のバーニー・サンダース氏を含む上院議員グループが法案〝Safe and Secure Decommissioning ACT〟を提出した。使用済燃料がプールに残っている間は廃炉中原発に対する非常事態対策の免除申請を認めない、というのがこの法案の趣旨である。

 米国では廃炉決定から数年のうちに周辺地域に対する非常事態対策を縮小・撤廃する動きがある。それに対して立地州政府や地域を代表する議員らは、なし崩しの防災縮小を防ぐための制度づくりを続けている。

 日本でも原発周辺地域(概ね30㌔圏)では避難計画の策定が義務付けられ、緊急時モニタリングセンターなど緊急時対応施設・設備が整備されている。廃炉決定後、そして廃炉期間中、これら地域防災策やインフラはどう維持されるのだろうか。

 NRCは「廃炉が進むにつれて事故リスクは減少する」という評価に基づき、周辺地域のEPZ撤廃を決定した。この考え方は米国政府だけのものではない。日本の資源エネルギー庁もまた「廃炉が進むにつれて事故リスクは減少する」との考え方をとっている。同庁資料は「今後は、安全を第一としつつも、廃炉の各プロセスにおけるリスクに応じた安全規制を検討することも必要になる」と指摘している(「原子力発電所の「廃炉」、決まったらどんなことをするの?」)。日本でも廃炉の進む原発に対する安全規制が変更され、それが周辺地域の防災体制に影響を与える可能性がある。

 廃炉進行中の原発周辺地域で、避難支援体制や緊急時モニタリング体制をどのように維持していくかは前もって議論しておくべき論点だ。日本では自治体に避難計画策定が義務付けられており、緊急時モニタリングセンターや安定ヨウ素剤配布体制の整備も基本的に自治体が行っている。原発全機廃炉が決定した後にも、これら緊急時対応に必要な設備や組織は長期間維持する必要がある。

 数十年続く廃炉期間中、自治体が自力で地域防災体制を維持・向上していくことはできるのか。日本でも、廃炉中原発と周辺地域に対する継続的な防災策を、事業者と国に義務付ける仕組みが必要になるだろう。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。

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