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甲子園で結果を残すチームづくり|【生島淳】【スポーツ】東北からの声4
今年も夏の甲子園の観戦に行ってきた。毎年同じ時期に行くが、今年ほど暑い、いや暑すぎる大会は記憶になかった。気温が上がる第2試合、第3試合には足を攣る選手たち、そして観客席でも体調を悪くするファンが目立った。気候変動の影響を肌身に感じた。
さて、今年は東北勢では青森山田が準決勝へと駒を進め、気を吐いた。
青森山田にとっては12回目の出場となったが、意外なことに夏の甲子園に出場したのは7年ぶりのことだった。かつては県外からも選手がやってくるイメージが強かったが、2011年に部員の死亡事故が起きてからは、青森県内の生徒を中心にチーム作りを進めるようになった。
今回、ベンチ入りした20人の選手のうち、青森山田中学の選手が10人いた。青森山田中学には硬式野球のリトルシニアのチームがあり、2021年の日本選手権で優勝したメンバーが今回、甲子園での快進撃を支えた。22年の甲子園で東北勢として初優勝した仙台育英の場合は、中学の軟式野球を強化し、それを高校へとつなげたが、青森山田中学の場合は学校のなかに硬式野球のチームを作ったのが新しかった。中高一貫で硬式野球の指導ができるのは、全国的には珍しい。
今年、夏の甲子園に出場した東北6県の学校の強化策はバラエティーに富んでいる。青森山田は中高一貫を柱にしつつも、県内の中学生が高校からも入学してくる。
第100回の記念大会で準優勝した秋田の金足農は東北地方の代表では唯一の公立校で、オール秋田。岩手の花巻東は20人中17人が岩手出身で、残る3人のうち2人は関東圏、そしてもうひとりは宮城出身だ(私の故郷・気仙沼の中学校出身だが、中学時代から岩手の金ケ崎シニアでプレーしていた)。同じような構成を取っているのが初出場の宮城の聖和学園で、栃木出身の2人をのぞき、全員が宮城県出身だ。
山形の鶴岡東と、福島の聖光学院は全国から生徒が集まっているが、聖光学院の場合は福島県出身の選手が8人ダグアウトに入り、鶴岡東は山形県出身者が1人だけというメンバー構成になっている。
いま、日本は少子化の時代を迎え、野球人口も徐々に減りつつある。そのなかで甲子園を目指す学校は人材、才能を確保していかなければならないが、青森山田のように中学・高校の一貫教育のなかで選手を育成していくシステムを作り上げたことは、「仕組み」の勝利でもある。かつて起きた不幸な事件が、足元を見直すことにつながり、今では地元からも大きな声援を受ける学校となった。
20世紀までは部員間の競争を促すことで強いチームを作ることは可能だった。しかし、少子化時代を迎えて、100人を超える部員を維持するのはむずかしくなっている。このところ、仙台育英、青森山田が結果を残しているのは、中高一貫による指導、そして県内の中学生への目配りという点で興味深い。プロ野球では「編成」というチームづくりのプランを担当する役職が重要だが、いまや高校野球でもどんなチームを作るかという「構想力」が重要な時代になった。
いくしま・じゅん 1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大卒。博報堂で勤務しながら執筆を開始し、99年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る。最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川書店)。
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