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【政経東北】遺族年金〝改悪〟より前にやるべきこと|巻頭言2024.09

 厚生年金の加入者が亡くなった際、遺族に支払われる「遺族厚生年金」について、厚生労働省は7月30日、60歳未満の現役世代に関しては、男女とも5年間の期限付き給付にする案を示した。社会保障審議会年金部会で議論し、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出するという。

 遺族厚生年金は2号被保険者(会社員・公務員など)の遺族が対象で、支給額は亡くなった人の厚生年金(報酬比例部分)の75%。65歳以降は自分の年金と遺族厚生年金、どちらかを選ぶ。現行制度は夫と死別した専業主婦の妻が生計を立てるのは困難として、女性に手厚い仕組みだった。20~50代で子どもがいない場合、女性は何歳でも無期限での支給対象となり、30歳未満の場合のみ5年間の有期給付となるが、男性は55歳未満が支給対象外となり、60歳までは支給が停止される。40歳以上の妻には中高齢加算も支給される。

 ただ、女性の社会進出や共働き世帯の増加が進む中、男女差を解消すべきという意見が出ていた。そうした中で厚労省が男女一律で有期支給に切り替える案を示したわけ。中高齢寡婦加算なども段階的に廃止する方針となっている。

 制度変更は今後20年程度かけて段階的に行う方針。一方で配慮措置として①有期給付加算の創設、②受給対象者の収入要件(850万円未満)の撤廃、③亡くなった人の配偶者が受け取る厚生年金を増額する「死亡時分割制度」の新設も検討していくという。

 もっとも、働く女性が増えたといっても、共働き世帯の多くは妻がパートタイムで働いている。出産・子育てなどで転職・休職を余儀なくされるケースが多く、男性との賃金差が生じやすい。女性に任せられる仕事や役職が限られる「見えない格差」も存在しており、本県を含む地方ではその傾向がより顕著だ。20年でそうした男女差は解消されるのか。

 暁経営会計(郡山市)の伊藤江梨代表は「年金制度は複雑で不公平なので改善が必要。極端な男女差に関しても絶対になくすべきです」と指摘したうえで、「少子高齢化・労働人口不足に直面する日本としては、年金給付を減らし労働者を増やしたい。『子どものいない夫婦は配偶者の死後、年金に頼らず自分で生活費を稼いでほしい』という国からのメッセージということでしょう」と語る。

 そうしたメッセージを出すのであれば、遺族年金の〝改悪〟よりも前に、女性の労働環境の改善、年収アップに向けた議論・制度設計など、やっておくべきことがほかにあるはずだ。(志賀)


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