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【高橋ユキ】のこちら傍聴席23|「ルフィ一味が割れなかった窓」
SNSの「闇バイト募集」を介し集められた者たちが「広域強盗」に及ぶ事例が後を絶たない。彼らは報酬目当てで闇バイトに応募し、秘匿性の高いアプリで指示役からの指示を受けながら、民家に侵入する。ときに暴力を用いて家人を脅し、財産を根こそぎ奪ってゆく。福島にお住まいの読者の皆様もきっと、不安な毎日をお過ごしのことと思う。
傍聴していると、予防の観点から役立ちそうな話が得られることもある。皆様のお役に立てればという気持ちで今回は事件を共有したい。
広域強盗の恐ろしさを世間に知らしめたのは、昨年1月に東京都狛江市で発生した強盗致死事件であろう。ひとりで在宅していた90歳女性が実行犯らにバールで殴られたことにより死亡した。この事件において実行犯らを操っていたのは「ルフィ」を名乗る指示役たちだったが、彼らが関わった広域強盗はこの一件だけではない。指示役4人は少なくとも8事件で起訴されており、そのひとつが2022年11月に山口県岩国市で発生した強盗未遂事件になる。本事件では、なかなか住宅に侵入できないというトラブルが起こっていた。
実行役の一人にこんなメッセージが指示役から届いたのは決行数日前。
〈案件出ました 1億です 在宅の夜中に突入し金庫を開けます〉
家人が留守の隙を狙う空き巣では、闇雲に金のありかを探さなければならないが、家人が在宅中に侵入し、脅して金のありかを聞き出す強盗ができれば、大金を得られるという考えから「ルフィ」らは空き巣よりも強盗に重きを置いていた。岩国の〝案件〟でも「ルフィ」は強盗を指示している。これに応じた実行役らと指示役との間でメッセージが交わされ、本来の決行日であった11月6日を迎える。深夜に窓ガラスを割って侵入する計画だった。ところが実行犯らはこの日、失敗した。被害者宅の窓ガラスが全く割れなかったのだ。
「とりあえず、焼き破りで窓を割って侵入できるところを探し、裏手に行って、すりガラスの部屋に目星をつけました。しかし、試してみましたが窓は割れず、指示役にも聞いたりしたのですが、どこからも入れず、別の掃き出し窓を割って侵入しようとしました。私が持っていたバールで思いっきりフルスイングで窓ガラスを叩いたのですが、それでも割れず、かなり大きな音が出たので、一目散に逃げて、運転手役が乗っている車まで戻りました」(実行役証言)
決行は翌日に持ち越され、夜に再び実行役らが集まった。しかし、やはり窓ガラスは割れない。
「前日と同じようにバールで窓を思いっきりフルスイングで叩いて入ろうと思い、とりあえずやってみましたが開かず、指示役から『窓の四隅を叩いたほうがいいよ』と言われ、叩いていたのですが、その最中、鍵がかかっていると思っていた窓の鍵が開いていることに気づき、皆で一旦車に戻りました」(同)
つまり窓ガラスは一向に割れなかったが、そもそも鍵が開いている窓を発見したことから、侵入に成功したのだった。少なくとも実行役らは、住宅の窓ガラスが割れなかったことから一度撤退している。防犯フィルムや防犯ガラスなどの防犯対策は無駄ではないことを思い知らされた。ちなみにこの事件で実行役らは侵入に成功したが、家人が日本刀で応戦したため、あわてて退散。逃げ遅れた1人がその場で逮捕されている。
たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。
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