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【尾松亮】IAEAの安全レビューは利益相反|廃炉の流儀 連載51

 汚染水海洋放出に対して国際原子力機関(IAEA)がお墨付きを与える立場で出した包括報告書の問題点は本連載でも繰り返し指摘してきた。そしてIAEAが1F視察中に重大事態(ALPS汚染水漏出事故)を見逃していた問題についても前号で指摘した。

 看過できないのはこのIAEAのお墨付きを得ることで、住民を無視した政策を進める方式が1F廃炉以外の場面でも横行していることだ。6月7日付の朝日新聞は《東京電力は6日、柏崎刈羽原発(新潟県)のテロ対策の不備を受けて行った改善措置について、現地調査をした国際原子力機関(IAEA)から根本原因に対処したと評価されたと発表した》と報じている。散々テロ対策の不備を指摘され、地元からの反対も根強い柏崎刈羽原発の再稼働に向けて、やはりIAEAの「根本原因に対処した」というお墨付きをもらうことで前進しようとする動きである。

 しかしIAEAのレビューはその内容面でも突っ込みどころ満載であり、よく読むと「国際基準の一つについてはレビューしない」とか「IAEAとしては政策決定の責任は負わない」とか、重要なところで判断留保をしていることも目立つ。

 そもそもIAEAは原子力発電の推進機関であり、原発の安全性を中立的な立場からチェックできる機関ではない。「全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発及び実用化を奨励しかつ援助」することがIAEAの主要任務であることはその憲章に明記されている(国際原子力機関憲章3条)。

 IAEAは幹部にも原子力業界の企業出身者が並ぶ。例えば事務次長のチュダコフ氏は、ロシアの原子力事業者ロスエネルゴアトムで原発所長を務めた経歴を持つ。原発運転企業出身者が幹部を務める組織で、元同僚達やパートナーが推進する原発事業に厳しいチェックができるはずがない。ロスエネルゴアトムは、ウクライナでザポリージャ原発を支配するロシア国営原子力企業ロスアトムの傘下企業である。ロスアトムは、他国の原発を支配しウクライナ人従業員にロシア国籍取得を働きかけるなど「原子力の平和利用」に真っ向から反する活動を行っているが、IAEAはロスアトムに厳しい活動規制をしていない。ロスアトムがトルコで進めるアックユ原発建設に関しては、2023年4月同原発1号機用の初装荷燃料を記念した式典にIAEAのグロッシ事務局長も出席している。人権侵害企業であっても、原発を建設し原子力業界の仕事を増やしてくれる企業は支援するのだ。

 IAEAの利益相反関係は日本にもある。日本原子力研究開発機構(JAEA)はIAEAのOBや出向経験者を多く受け入れている。

 いくつか例を挙げる。山口知輝氏は2015年から約5年間IAEAで勤務したのちにJAEA技術開発推進室長を務めている。堀啓一郎氏は07~12年までIAEAで勤務した後、JAEAで1F燃料デブリの計量管理技術開発に従事している。谷弘氏はIAEAで勤務した後、JAEAの前身である日本原子力研究所理事を務めている。このように自らのOBが多く勤務するJAEAが関与する核燃料サイクルや1F廃炉プロジェクトに、IAEAが厳しいチェックをするはずがないのだ。

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 おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。

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