見過ごせない、フクイチ以外のリスク―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉕
東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、発災12年目になっても、収束作業が続いています。
フクイチに関しては社会的な知名度も有り、どのようなリスクにどのように対処しようとしているのか、何が計画されているのか、ある程度は知られています。
しかし、日本国内でリスクの高い核施設はフクイチだけでは有りません。フクイチに目を奪われていると、別のリスクを見逃しかねません。
今回は、潜在的リスクの大きい、東海再処理施設(核燃料サイクル工学研究所内の再処理技術開発センター/「まとめ1・2」参照)を紹介します。
東海再処理施設は廃止措置中です。再処理施設の廃止措置は世界初です。
この施設の最も大きな潜在的リスクは、水素掃気と常時冷却が必要な高放射性廃液でしょう。推定インベントリ(注1)は約310京ベクレル(注2)で、単純に考えてもフクイチ核災害15回分です(注3)。
この廃液のリスクを下げる確実な方法は、ガラス固化体にすることです。ガラス固化体は水素掃気が不要で、空冷が可能です。
施設を保有している原研機構も廃液のガラス固化を進めようとしており、2016年1月末に約9年ぶりに固化作業を再開しました(注4)。原子力規制委員会・規制庁も早く進めるようにせっついていますが、設備トラブルが相次ぎ、21年9月までの約5年半で、ガラス固化体の製造は82本に留まりました。製造再開は今年6月頃の見込みです(注5)。
再開できたとしても、現行のガラス溶融炉(2号炉)は3号炉へリプレース(更新)しなければならず(注6)、保管ピットの新設も必要です(注7)。
私が懸念しているのは、廃液のガラス固化を終える前に、東海再処理施設が東北地方太平洋沖地震のような地震・津波に襲われ、廃液を貯留している貯槽等が破損する事です(注8)。廃液が施設の敷地に広がれば、人が近寄れなくなるかも知れませんし、廃液が鹿島灘に流出したらどうなるでしょう? 単純に、貯留量の1%の流出でも3京ベクレルです。どのような海洋汚染になるのか、前例もなく、想像もつきません。
東海再処理施設の潜在的リスクは高放射性廃液だけではありません。使用済み核燃料を再処理する際に発生した破片や屑等の一部はハル缶と呼ばれる容器に詰められ、専用のプールで水中保管されています。信じ難いことに、プールには、ハル缶を取り出す設備が設置されていないのです。現状では、ハル缶の中身(性状・核種・インベントリ)が把握できていません。
原研機構は、ROV(注9)を用いた引き上げ方法の検討に着手していますが、取り出しがいつになるのか、明確な見通しは立っていません。
プールの有る貯蔵セルの耐震性に問題は無いと説明されていますが、竣工は1972年で、ハル缶も古いものでは1977年から保管されています。取り出しと廃棄体化の完了は2040年頃と見込まれています(注10)。完了までに、建屋が破損しないのか。ハル缶が腐食して中身が水中に漏れないのか。疑問と不安は尽きません。
詳細を書く紙幅はありませんが、紹介した廃液とハル缶は、東海再処理施設が抱えるリスクの一例に過ぎません。
東海再処理施設は、課題の多さや困難さ、インベントリの多さを考えると、フクイチを別格にすれば、日本で最もリスクの高い核施設でしょう。
フクイチ核災害の大きな反省と教訓の一つは、多くの個人や組織が、施設のリスク要因やリスク情報を無視・軽んじて、リスクの顕在化を防げなかったことです。
フクイチに関して発災前から、全電源喪失の危険性や、建屋の水密化の必要性を指摘している人はいましたが、事業者も、規制当局も、報道も、国民も(私も含む)、指摘に耳を傾けず、気付ける筈のことに気付けませんでした。
東海再処理施設で同じ轍を踏んではなりません。
フクイチ核災害の重すぎる教訓を踏まえるなら、核施設の現状やリスク要因は、主権者として自ら確認しなければいけません。フクイチ核災害に加えて、新たな核災害が起きたら、この国はどうなるでしょう。私達は暮らしていけるでしょうか。
今回は、当連載での番外編的な扱いで東海再処理施設を紹介しました。核施設のリスクはフクイチだけではありません。関心が偏るとリソースの投入も偏り、別のリスクが顕在化しかねません。フクイチというリスクを抱えているからこそ、「全体を見る」ことが、より大切です。
注1・インベントリ/inventory。「放射能量」。元々は「在庫量」の意味。
注2・2020年8月。原研機構資料
https://www.nsr.go.jp/data/000329983.pdf
注3・チェルノブイリ核災害での環境への放出インベントリは推定・約190京ベクレル(ヨウ素131+セシウム134+同137+ストロンチウム90/UNSCEAR・2008報告)。
フクイチ核災害での環境への放出インベントリは推定・約21京ベクレル(同核種。気中・水中への放出の合計/原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書[2011年6月]、及び、東京電力推計[2012年5月])
注4・東海再処理施設でのガラス固化体の製造は1995年1月に開始。247体を製造した時点で、2007年12月以降、新潟県中越沖地震を受けた耐震バックチェック等の為、中断していた。
注5・2022年2月。原研機構資料
https://www.nsr.go.jp/data/000382225.pdf
注6・ガラス溶融炉の設計寿命は、ガラス固化体の製造500本程度。2号炉では今後150本程度の製造で設計寿命に達する見込み。
注7・廃液全量を固化処理すると、ガラス固化体は製造済みのものと合わせて850本程度になる見込み。既存の保管ピットは容量を拡充しても620本容量が上限。
注8・廃液を貯留している5つの貯槽の有る建屋は海抜6㍍に立地。建屋は海抜14・4㍍まで水密化済み。非常用電源は海抜18㍍に整備。
尚、東北地方太平洋沖地震後の点検では破損は確認されなかった。
注9・遠隔操作型の小型潜水機
注10・2021年12月。原研機構資料
https://www.nsr.go.jp/data/000373327.pdf
春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ
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