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【畠山理仁】兵庫県知事選挙の歴史的熱狂|選挙古今東西57
11月17日に投開票が行われた兵庫県知事選挙は「歴史の転換点」と位置づけられる選挙だった。9月に県議会から全会一致で不信任を突きつけられて失職した齋藤元彦前知事が劇的な逆転勝利を収めたからだ。
投票率は前回の41・10%から55・65%へと大幅にアップした。筆者は告示日、中盤、終盤の3回現地入りしたが、ネット上の盛り上がりが街中に飛び火し、実際の票と結びつくことを見せつけられた選挙だった。
選挙前、齋藤氏は世論調査で劣勢と見られていた。しかし、齋藤氏を応援する立場でのユーチューブ動画やSNSでの情報発信量が他候補を圧倒した。候補者の一人が実質的に齋藤氏を支援する立場で脱法的に活動したことも拍車をかけた。
そもそも今回の兵庫県知事選挙が行われることになったのは、3月に県民局長のA氏が齋藤氏のパワハラ疑惑などを告発する文書を匿名でメディアや県議に送付したことが発端だ。齋藤氏は記者会見で告発内容を否定したが、県議会は6月13日に百条委員会の設置を決定。ところがA氏は百条委員会に証人として喚問される直前の7月7日に自殺した。9月19日には県議会が知事の不信任案を全会一致で可決。齋藤氏は失職し、10月31日告示、11月17日投開票の日程で知事選挙が執行されることになった。この時点での齋藤氏に対する世間の評価は厳しかった。
しかし、出直し選挙への出馬を決めた齋藤氏がたった一人で駅に立ち始めた頃から風向きが変わる。齋藤氏に「がんばって」と声をかける県民の姿がSNSで発信されはじめると、選挙が始まる頃には齋藤氏を囲む人の輪が大きく膨れ上がった。
齋藤氏の演説会場に集まった人たちは「県議やメディアにいじめられてかわいそう」「たった一人で既得権益に立ち向かっている」と齋藤氏を評し、徹底的に寄り添った。
選挙は候補者が試される機会であると同時に有権者も試される。齋藤氏を囲む聴衆は選挙戦終盤には数千人規模になった。恐ろしいほどの熱狂は「パワハラ疑惑」「県民局長の自殺」「県議86人による全会一致で不信任」という論点や事実をあっさりのみ込むうねりになった。
今回の選挙をきっかけに、既存メディアは選挙報道のあり方を根本から考え直すべきだろう。公平性を重視するあまり、選挙中に充分な情報を提供できていなかったからだ。
選挙中、多くの有権者はインターネットに流通する情報を頼りにした。根拠の薄い独断や偏見に満ちた情報も多く見られたが、圧倒的に刺激が強く、量も多かった。一方、既存メディアはほとんど沈黙した。これが既存メディアに対する不信感と結びつき、ネット情報を「本当らしい」と信じさせる原因になった。
齋藤氏の演説会場には、若者から年配者まで、今まで選挙に行ったことがない人たちがたくさんいた。つまり、〝政治的初恋〟の渦中にある人たちだ。そうした人たちは「いじめられてもたった一人で戦う斎藤さん」の物語に共感を覚えていた。
これは「政治離れ」を放置してきた既存政治勢力の敗北である。
はたけやま・みちよし 1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大在学中より週刊誌などで取材活動開始。選挙を中心に取材しており、『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(2017年、集英社、2019年11月に文庫化)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。
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