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「東電の重過失とは認められない」―仰天の広島地裁判決|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中57

 冒頭、見出しから外れます。

 前号連載(第56回)で取り上げた、フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の増設雑固体廃棄物焼却設備(以下「増設焼却炉」)に関する続報です。

 東電は、10月28日の原子力規制委員会の検討会で、増設焼却炉の木材チップや水の回収完了時期を今年10月から12月末へ変更し、稼働再開時期も2025年度半ばから2025年度末頃(2026年3月?)へ変更する旨を報告しました(注1)。

 増設焼却炉は、2025年は稼働できないことが確定しました。2024年の稼働率も7%程度に過ぎません。稼働できないのでは、設備を設置した意味が無いでしょう。増設焼却炉を受注した日本ガイシ株式会社を儲けさせただけではないでしょうか。

 尚、フクイチで生じる生活ごみの敷地外搬出について、11月25日現在、続報は確認できません。

 本題です。

 10月16日に広島地方裁判所302号法廷で「福島原発ひろしま訴訟」(注2)の判決公判を傍聴しました。

 現在、フクイチ核災害によって生活や人生の変化を強いられた被害者が国・東電に損害賠償を求める集団訴訟は24件が継続しています。

 これらの集団訴訟では、2022年6月17日に最高裁が4訴訟について「国の賠償責任を認めない」判決を下して以降(注3/以下「6・17判決」)、同様の判決が続いています。

 残念ながら、ひろしま訴訟の判決(吉岡茂之裁判長)も、原告の請求の大半を否定するものでした。これで、国の賠償責任を否定する判決は、6・17判決以降14回連続です(「まとめ」参照)。裁判官は本当に独立して考えているのでしょうか?


 ひろしま訴訟の判決の概要を、紙幅の関係で特徴的な部分のみ箇条書きします(報告集会で判決概要は配布されなかったので、当日のメモに基づく。番号は整理の都合で付与)。

 ①現実に襲来した津波の方向・規模は、予測されていたものと大きく異なっていた。従って、国が規制権限を行使して東電に防潮堤の設置を命じていたとしても、事故発生は防げなかった可能性が高い。よって国は賠償責任を有しない。

 ②シビアアクシデント(過酷事故)が法令に基づく規制対象になったのは、本件事故後の法令改正によるものと解すべき。

 ③東電の賠償責任は原子力損害賠償法に基づくもののみ認め、民法に基づくものは認めない。

 ④東電が支払うべき賠償金額は東電の「弁済の抗弁(=「過去に賠償金を払い過ぎたから返して」という主張)」を一定程度認め、それを差し引いた金額とする。

 ⑤東電による賠償は類型的且つ一律に認めるのが適当(=個別の事情は賠償金額算定の際に考慮しない)。

 ⑥事故は東電の重過失によるものとは認められない。

 津波対策を防潮堤に限定し、建屋の水密化や電源設備の高所移転に触れない不自然さは、6・17判決そのままです。加えて、シビアアクシデントに関する規制の根拠も否定しています。だとしたら、規制当局が有していた原子炉停止を命じる権限等は何を目的としていたのでしょう?

 更に、東電の賠償責任は認めつつも、様々な理由で支払額を軽減し、「(フクイチ)事故は東電の重過失によるものとは認められない」とまで言っています(傍点筆者)。私が行政の会議や訴訟の傍聴を続けてきた中で「東電の重過失ではない」との判断は聞いたことがありません。

 ひろしま訴訟判決は、6・17判決を悪い意味で乗り越えています。国民の一人として看過できません。悪い前例が有ります。

 2022年4月20日に、さいたま地裁で「福島原発さいたま訴訟」(注4)の判決(岡部純子裁判長)が言い渡されています。この判決は「国が規制権限を行使していたとしても、事故は防げなかった可能性が高い。よって、国は賠償責任を有しない」との論理で国を免責しました(注5)。その約2カ月後、最高裁は同じ論理を用いました。

 私は、最高裁が地裁判決を見本とする流れが繰り返され、「国は賠償責任を有しない」に加えて、「賠償支払い額を軽減する」動きが強まるのではないかと危惧します。

 賠償額の軽減は論外ですし、そもそも、フクイチ核災害は、国策の結果として生じたものです。国の賠償責任を厳しく問うのが当然でしょう。6・17判決では三浦守裁判官が「国は賠償責任を有する」旨の反対意見を付しました(注3)。これこそが真っ当な判決であるべきです。

 尚「さいたま訴訟」は原告88人が控訴し、東京高等裁判所で係争中です。「ひろしま訴訟」は原告22人が10月30日に広島高裁に控訴しました。

 最後に、再び見出しから外れることをご容赦下さい。

 フクイチの「処理水」希釈放出(投棄)は、11月4日に累計10回目が終了しました(注6)。これまでに放出された水量・放射能量・化学物質量は別掲の通りです。


 注1/第114回特定原子力施設監視・評価検討会 資料3-2  


 注2/広島県に避難した15世帯37人が国・東電に損害賠償・約4億0700万円を求めた訴訟

 注3/判決文は拙ブログに掲載(少数意見含む)

http://plaza.rakuten.co.jp/haruhasi/diary/202206190000/?scid=we_blg_tw01

 注4/埼玉県に避難した28世帯95人が国・東電に損害賠償・約11億円を求めた訴訟

 注5/福彩支援ニュース・第37号(2022年5月/判決要旨が掲載)

https://fukusaishien.com/wp-content/uploads/2022/05/2022_5_26fukusai37fix.pdf


 注6/

https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2024/2h/rf_20241105_1.pdf


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。


*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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