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【高橋ユキ】のこちら傍聴席21|警察の隙を突き留置場から脱走
福島県を含む4県広域強盗に関与したとして強盗容疑などで逮捕されていた男が8月3日、栃木県の宇都宮中央署の留置場から逃走を図り、加重逃走未遂の疑いで逮捕された。
男はベトナム国籍で群馬県藤岡市の無職、ホアン・フー・ホア容疑者(25・逮捕当時)。同日午後6時半から7時24分ごろ、留置されていた部屋の天井一部を損壊し、天井裏から逃走しようとしたという。巡回中の警察官が天井の穴から逃げようとしていた容疑者を発見した。
強盗事件は今年4月から5月にかけて栃木、群馬、長野、福島で立て続けに発生。山あいのポツンと一軒家に侵入し、家人を緊縛した上で金品を奪うという手口だった。ともに逮捕されたマイ・バン・シー容疑者(23)も、ホア容疑者も、技能実習生として来日していたという。ふたりは長野・松本市の強盗に関与したとして9月に強盗傷害容疑で再逮捕されている。
巡回の目を盗み、天井に穴を開け、逃走しようとしていたホア容疑者は、逃げ出す前に現行犯逮捕された。留置場は警察署の中に置かれており、警察官らの目が光る場所。逃走するのは容易ではない。しかし、かつて留置場から逃走を図り、なんと48日間も逃げ続けていた男がいた。拙著『逃げるが勝ち』から紹介したい。
その男、A(当時30)は、大阪府内で盗品のバイクを保管していたとして2018年5月に現行犯逮捕され、富田林署で勾留中だった。その後3回の再逮捕を経て、強制性交等罪や強盗致傷罪など、4つの罪で起訴。さらに別の女性への強制性交未遂容疑でも逮捕されていた。Aが富田林署から姿を消したのは8月12日。お盆休みの前日日曜夜のこと。事件を担当する弁護人との接見を終えたのち、ひとりになった面会室のアクリル板を蹴破り逃走した。面会室に接する控え室にあった署員のスニーカーが紛失しており、警察署の駐車場にはAが履いていたサンダルが残されていた。しかしそもそも、なぜ面会室でひとりになることができたのか。
通常、一般面会人と被疑者が面会する際は、面会室に職員が立ち会う。だが、弁護人との接見においては、立ち会いが不要となる。加えて富田林署にはハード面の欠陥があった。多くの警察署には、外側の面会室ドアに出入りを知らせるブザーが取り付けられている。富田林署にもこのブザーはあったのだが、電池が1年以上前から抜かれており作動していなかったのだった。また平日であれば面会室の外で署員が待機しているが、土日や夜間はこうした対応がなされない。そのため富田林署は、接見終了の際に署員に声をかけるよう弁護人に依頼していたが、これは義務ではなかった。そして当日、弁護人は接見を終えてもなぜか署員に声かけをしないまま警察署を出てしまっていたのである。
接見が長時間であることから署員が様子を見に行ったところ、面会室には誰もおらず、アクリル板の下部が外側に押し出され、幅約30センチの隙間ができていた。Aはこうして警察署を逃げ出し、あろうことか「自転車日本一周の旅」の男になりきり、盗んだ自転車で日本を縦断していくのだが、山口県周南市で万引きしていたところ、Gメンから現認され、逮捕されたのだった。
Aはのちに加重逃走でも逮捕起訴され懲役17年の判決が確定している。
たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。
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