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現実的でない、市民運動の「提案・提言」【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊲

 今回の記事の前提として、「(私は)『ALPS処理水』(注1)の環境中への放出には反対」「東電・政府への感情や思いは脇に置く」の2点をお断りしておきます。

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)の放射性液体廃棄物(以後、「汚染水」と略)に関しては、海洋放出に反対の立場から複数の提案・提言がなされており(「まとめ1」参照)、市民運動関係の集会でも繰り返し取り上げられています。




 私は、これらの提案・提言は、何れも現実的・合理的でないと考えています。理由の概略を「まとめ1」の順に書きます。

 1、広域遮水壁+集水井

 「完成まで数年」を要し、効果が発揮されるまでは現状のままです。集水井の設置に際して発生する掘削土は、敷地外には持ち出せませんから、固体廃棄物の保管量が増えます。

 汲み上げ水を集約し、排水する設備も必要で、漏洩検知や送水管等の保守にもリソース(人員・資機材・予算)を確保しなければなりません。

 2、モルタル固化

 固化後には体積が4倍に増えます(注2)。単純計算で、現状の液体廃棄物・約130万立方㍍が520万立方㍍の固体廃棄物になります。保管・処分すべき廃棄物の物量を増やすことは、却って問題を大きくします。

 又、固化プラントの建設用地を確保しなければならず、保守のリソースも必要です。最終的にはプラントも解体・撤去しなければならず、固体廃棄物が増えます。

 3、北側敷地へのタンク設置

 フクイチの北側敷地については「主として固体廃棄物の保管・処理の為の設備を設置する」という大きな仕切りがされています。紙幅の関係で構内配置図は示せまんが、北側敷地には固体廃棄物の保管・減容に必要な建屋・設備が建設済み、又は建設中です。

 敷地の利用目的を変更すると、固体廃棄物関係の設備の建設位置から見直さなければならず、固体廃棄物のリスク低減が遅延します。

 4、「処理水」を材料として利用

 核災害由来の放射性廃棄物が混入した資材を工事で用いようとしても、社会的には、環境省が新宿御苑等で実施しようとしている「除染土」再利用試験と同じ反応になり、工事実施は極めて困難でしょう。

 又、フクイチ敷地内に製造プラントの建設が必要で、2と同様の問題が生じます。

 前回(2023年3月号)のワイド版で固体廃棄物を取り上げたように、フクイチで対処すべきリスクや課題は、液体廃棄物だけではありません。

 又、プラント設置を要する手法の採用も抑制すべきです。書類上は素晴らしい仕様でも、竣工が遅延したり、稼働率が低くなれば、リスク低減は進みません(増設焼却炉の例が有ります/注3)。

 何よりも念頭に置くべきは「フクイチ敷地内での作業は、被曝労働である」ことです。

 フクイチで働けば、線量の多少はともかく、被曝するのです。働く人数や被曝線量は可能な限り抑制すべきです。フクイチに関して何らかの提案・提言をするなら、その提案を実施(=施工・保守)するに際して要する人数や被曝線量も考慮する必要が有ります。

 総じて、市民運動の側からの「提案・提言」は、「液体廃棄物の保管量(又は発生量)の削減」に偏っており、「全体の最適化」の視点が欠落しています。 

 前例の無い核災害の現場で、地下水の建屋への流入経路・流入量が確認できないまま、不確実性も含めた多くの要素を考慮して対策を立案し、複数の工事・プロジェクトを同時並行で被曝しながら実施しているのですから、手戻り(やり直し)のリスクを避けつつ着実に進めることを考えるなら、「一発逆転狙い」ではなく、「急がば回れ」が基本でしょう。

 最後に、所謂「汚染水対策」に関して、現時点での私の考えを簡単にまとめておきます。

 タンク貯留容量の拡充策は、昨年9月の経産省への申し入れ内容に含めています(注4)。

 建屋への地下水流入抑制策は、建屋毎の流入量が評価できたこと(「まとめ2」の「※6」)を踏まえると、東電が「建屋止水」(同「※7」/注5)を選んだのは合理的でしょう。


 注1/一度でもALPS(多核種除去設備)で放射性核種の濃度低減処理を施した放射性液体廃棄物

 注2/「ALPS 処理水取り扱いへの見解」についての補足(原子力市民委員会・2019年11月)

http://www.ccnejapan.com/?p=10506

 注3/連載・第33回(2022年12月号)

https://note.com/seikeitohoku/n/n64de7ccb5e0c

 注4/ブログ記事「フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答」(22年10月17日付)

  注5/第26回・汚染水処理対策委員会の「資料2」
 

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/osensuisyori/2022/26_04.pdf


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