改めて、タンク用地の確保策を考える―【春橋哲史】フクイチ事故は継続中⑲

(2021年10月号)

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、汚染水(放射性液体廃棄物)が発生し、タンク貯留水が増え続けています。

 政府・東京電力は、この「ALPS処理水」(注1)を海洋に希釈放出する方針を決定し、設備等の準備を進めています。

 放出する理由について、政府・東電は「(フクイチ敷地内での)タンク増設の余地が極めて限定されているから」と説明しています。

 しかし、東電自身の資料を基に考察しても、用地の確保は可能と思われます。政府・東電の説明は、説明の為の説明としか思えません。

 連載の第2回(本誌2020年5月号/注2)で、私は、タンク用地確保の具体策を提示しました(フクイチの敷地を南側に拡張)。この意見は、ALPS小委員会の公聴会や、2020年4~7月のパブリックコメントにも提出しています。

 ところが、本年5月に東電が公表した「敷地利用計画」の中に、「敷地南側は最大高低差20㍍の急斜面」である旨の説明が有りました(注3/PDFの13頁)。私は、この資料に初めて目を通した時、敷地外のことを説明する文言が加えられているのに奇異な感じを受けました。

 東電が「敷地南側」に関する説明を記載した理由は分かりませんが、「高低差20㍍の急斜面」なら「敷地を南側に拡張してタンク用地とする」案は撤回せざるを得ません。

 そこで改めて、タンク用地の確保策を考えました。敷地全体図の「※」が、私の新たな案です。

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 ALPS等の水処理設備や、既存タンク群から離れた場所にタンクを設置するのは、配管の敷設や保守の手間、漏洩リスクの観点から避けるべきでしょう。

 既存のタンクエリアのリプレース(更新)で、どれだけのタンク容量が確保できるのか、断定できる資料は有りませんが、G4北・G5エリアは、リプレースを機に容量が約1・3倍になっています(約2・3万㌧→3・1万㌧容量)。E・C・H9(H9西も含む)エリアも同様だと仮定すると、約9・6万㌧容量が確保できます。

画像1

 これに加えて、乾式キャスク(注4)の仮保管設備を移転することで、更に用地を確保します。確保できる面積について、これも断定できる資料を見付けられていませんが、仮に「Eエリアと同程度」と想定すると、5~6万㌧容量程度でしょう。

 大雑把な計算なのは申し訳ないのですが、敷地内で新たに15万㌧容量程度のタンク用地の確保は可能と思われます。

 タンク内貯留水の過去1年間(2020年8月末~21年8月末)の増加量は約4000㌧/月ですから、約3年分です。

 乾式キャスク保管設備の移転先は、敷地北側の土捨て場か、敷地外に求めるしかないと思いますが、キャスクの移送・保管は、液体に比べて遥かに容易です。更に移転する必要が生じれば、その際にまた対応すれば良いでしょう。但し、何処に移転するにしても、東電の社長や内閣総理大臣(原子力災害対策本部長)が、立地自治体や地元住民の元へ何度も足を運び、誠を尽くして話し合うのが大前提です。書類上の面積や図面上だけの問題にしてはなりません。

 デブリ(溶融燃料)の取り出しは、「無期延期」にすべきでしょう。建屋地下に溶け落ちている筈のデブリを少量でも取り出し、その為に高線量に汚染される機器や廃棄物等を生じさせれば、管理すべき高線量線源を増やし、分散させることになります。リスク低減に逆行し、リスクを高くすることにもなりかねません。集中管理の原則からも外れる上、終了時期未定の高線量作業となるのは必至です。

 デブリ取り出しに挑んで新たなリスク・未知のリスクを生じさせるより、今のリスク(この場合は、増え続けるタンク内貯留水)の厳格な管理が優先されるべきです。

 政府・東電は、即刻、「(処理水を)海洋へ希釈放出する」方針を撤回し、タンク用地の確保を最優先に、敷地利用計画を見直すべきでしょう。

 注1
 処理水+処理途上水=約126万㌧(9月16日時点)。

 注2

 注3

 注4
 乾式キャスク(dry cask)/使用済核燃料を不活性ガスと共に収納する金属製の容器。空冷式。フクイチでは、キャスク37基に計2033体の燃料を保管。


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ


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