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【横田一】自民総裁選の焦点はアベ政治からの転換|政界ウォッチ33

 岸田首相が総裁選への不出馬を表明した8月14日以降、自民党総裁選が一気に本格化したが、19日にいち早く出馬表明をしたのは小林鷹之・前経済安保担当大臣(49)。若手議員を中心とする国会議員(安倍派は11人)も会見場に駆けつけ、すでに推薦人20人を確保していることをアピール。そして「自民党は、生まれ変わる。」と記した垂れ幕をバックに小林氏は、「すべての党員、国民に新たな自民党に生まれ変わることを約束する」と切り出した。

 「刷新感」「若さ」を前面に押し出すイメージ戦略だが、決意表明に続く質疑応答が進んでいくうちに「古きアベ政治を継承する“旧統一教会忖度候補”ではないか」という疑問が膨らんでいった。経団連トップも要請している「選択的夫婦別姓の法制化」に慎重な姿勢を示したからだ。不便や不利益を被っている人がいることを認識しながらも、以下のような弥縫策で対応すると述べたのだ。

 「(選択的夫婦別姓について)既に旧姓の併記がマイナンバーカードや住民票で認められているし、多くの国家資格で認められるような制度改正がすでになされている。もっと周知を徹底する形で、より現実的にこのニーズに応えていくべきだ」

 一方、旧統一教会との関係も再び問い質されたが、「旧統一教会の教えは公明党よりも上だ」という発言については「記憶は一切ない」と反論。旧統一教会関連団体主催のイベントに出席したことについては「地元の方から誘われ、地域のスポーツ行事という認識で参加した」「主催者の確認を徹底してやっていけば良かった。ある意味、軽率だったと反省している」と述べながら「こうした団体の方との関わりはないし、今後も持つつもりはない」と強調した。

 しかし岸田首相と同様、安倍元首相銃撃事件後に「旧統一教会との関係断絶」を口にしても、その「教え」の影響を受け続けている可能性はある。古い家族観の持ち主である旧統一教会は選択的夫婦別姓に反対で、最も関係が深かった安倍派国会議員には反対論者が多いという相関関係があるのは、両者のズブズブの関係の産物のようにみえるからだ。

 そこで質問者として指されなかったので会見終了直後、小林氏に向かって声掛け質問をした。

 「旧統一教会に忖度して選択的夫婦別姓に反対しているのではないか。安倍派の票狙いか。『(選択的夫婦別姓を)法制化する』と言えばいいのではないか」

 しかし小林氏は質問には答えることなく、支援議員から拍手が沸き起こる中、笑顔で立ち去った。

 この時、私は「最大派閥だった安倍派の票を固めて総裁選に勝利しようとしている」と確信した。決意表明でも質疑応答でも小林氏はアベ政治継承の姿勢を明確にしていた。

 冒頭では、岸田政権の原発再稼働を評価。行き過ぎた円安で輸入物価高を招いているアベノミクスの見直しも言わず、米国兵器爆買いを招いている防衛費倍増についても批判せず、安倍派に最も多かった裏金議員の重用まで訴えていたからだ。

 年は若くても、政策の中身は古きアベ政治の継承者に過ぎなかったのだ。

 今回の総裁選は候補乱立となっているが、アベ政治継承の岸田政権との政策的違いを具体的に訴える候補が現れない限り、古き自民党の表紙を変えるだけの茶番劇になるのは確実だ。そんな中、青木美希著「なぜ日本は原発を止められないのか?」で「(私は)原発ゼロであるほうが望ましいと思っている」と語った石破茂氏は、8月24日の出馬会見で「原発ゼロに近づけていく」と表明した。原発推進のアベ政治からの方向転換をめぐる政策論争が交わされる可能性が出てきたのだ。総裁選の結果が注目される。

よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。

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