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【畠山理仁】茨城7区の「世襲」に注目|選挙古今東西55

 野党第一党である立憲民主党の代表選挙が9月23日に終わった。野田佳彦氏、枝野幸男氏、泉健太氏、吉田はるみ氏の4人で展開された選挙戦は、決選投票で野田氏が新代表に選出される結果となった。

 今回の代表選は3年前とは違い、自由民主党総裁選挙とほぼ同時期に行われた。そのことが功を奏して報道量も増え、世間の注目が集まった。野党の国会勢力は与党に遠く及ばないが、ようやく選挙ムードが高まってきたと言えるだろう。

 立憲民主党の新代表に就任した野田氏は今回の代表選を「政権交代前夜」と位置づけ、次期総選挙で「自公を過半数割れに追い込む」と意気込んでいる。そんな野田氏が自民党との違いとして強調する政策は選択的夫婦別姓などいろいろあるが、今回は世襲制限に注目したい。

 立憲民主党は自民党(国会議員の約3割が世襲)に比べて世襲議員の割合が低いが、まったくいないわけではないからだ。

 筆者が象徴的な存在として注目しているのが茨城7区だ。ここには前回総選挙から立憲民主党入りし、小選挙区で敗れたものの比例北関東ブロックで復活当選した中村喜四郎衆議院議員がいるからだ。

 選挙区内を細かく字単位でバイクに乗って駆け回る中村氏の選挙戦は独特だ。1日の移動距離は約200㌔。早朝から夜まで30カ所近い街頭演説を行う中村氏を筆者は「選挙の鬼」と呼んできた。中村氏の両親はともに参議院議員(先代・中村喜四郎氏、中村登美氏)のため、いわゆる「世襲議員」と言われているが、叩き上げの政治家でも真似できないような激しい選挙を戦ってきた。

 一方、茨城7区の現職は自民党の永岡桂子氏。永岡氏は2005年に夫・永岡洋治氏の急逝により地盤を引き継いだが、小選挙区では中村氏に5連敗。比例復活で当選を5回重ね、文科大臣などを歴任。前回の総選挙ではついに小選挙区で中村氏に勝利するところまで力をつけた。茨城7区は「地盤」(後援会)、「看板」(知名度)、「カバン」(政治資金)が継承される地域である。

 中村氏の選挙にまつわるエピソードはたくさんあるが、もっとも衝撃的なのは、中村氏が政界入りする際に戸籍上の名前を「伸」から「喜四郎」に変更し、二代目を“襲名”したことだろう。ここまでする人はなかなかいない。かつて筆者が中村氏を取材した際、中村氏は「選挙は私の人生のすべて」と語っていた。

 そんな中村氏だが、今回の代表選挙の翌日、水戸市内で記者会見を開き、次期総選挙には立候補せず、政界を引退すると表明した。中村氏はその場で後継者について明言しなかったが、9月26日には茨城県議会議員(2期目)を務める長男の中村勇太(はやと)氏が無所属で国政に挑戦する意向を表明した。

 県議会でも無所属を貫いてきた勇太氏は、今回、比例復活がない状態での国政初挑戦。バイクで駆け回る選挙スタイルはすでに継承済みだが、父親から後援会を継承するのか。三代目を“襲名”するのか。世襲批判にどう答えるのかにも注目だ。


はたけやま・みちよし 1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大在学中より週刊誌などで取材活動開始。選挙を中心に取材しており、『黙殺 報じられない〝無頼系独立候補〟たちの戦い』(2017年、集英社、2019年11月に文庫化)で第15回開高健ノンフィクション賞受賞。
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