「40年後廃炉終了」工程の由来を問う―【尾松亮】廃炉の流儀 連載12
この3月で、福島第一原発事故から10年が経過しようとしている。原子炉内には燃料デブリが残り、原発敷地内にはトリチウム等の放射性物質を含む汚染水(処理後のものも含む)を貯蔵するタンクが並ぶ。政府は「廃炉を進めるために先送りできない」として処理後の汚染水を海洋放出するための決定手続きを進めている。
そもそも福島第一原発ではこの10年間「何を目指す」作業が行われ、今後「何を先に進める」のか。10年間で明らかになった事実を踏まえ、再考する時期に来ている。
福島第一原発の廃炉には「30~40年かかる」と言われ続けてきた。東電と国の工程表に従えば、2041年から51年までの廃炉完了(廃止措置終了)を目指した作業が進められている。
工程では、今年(2021年)から事故で溶け落ちた燃料デブリの取り出し開始が予定されていた。2020年12月、東京電力は新型コロナウイルス感染拡大を理由にデブリ取り出し開始時期を1年程度延期すると発表したが、なお「40年後廃炉終了」の目標は変えていない。
この「30~40年後に終了」という目標は、政府の収束宣言(2011年12月16日)直後に発表された「福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(2011年12月21日、以下「中長期ロードマップ」)の中で次のように示されている。
「1~4号機の原子炉施設解体の終了時期としてステップ2完了から30~40年後を目標とする」(8頁)
政府は2011年12月にステップ2が完了し原子炉「冷温停止」達成、としている。つまり、ここを起点にして「30~40年後」には「1~4号機の原子炉解体までは終了する」というのが当初の目標であったことが分かる。原子炉内に燃料デブリを残した状態での原子炉解体が難しいことから、この「40年後の原子炉解体終了」までには「デブリ取り出し」も完了することを想定していたと考えられる。
中長期ロードマップはその後、計5回の改訂が行われた。これらの改訂を通じて「汚染水対策」や「デブリ取り出しのための工法」など「廃止措置等に向けた」重要な取り組みについての記述が変わっている。それにもかかわらず「40年後の廃炉終了」「10年後までにデブリ取り出し開始」という目標時期は維持されてきた。
この「30~40年」という廃炉工程は、そもそもどうやって組み立てられたのか。度重なるロードマップ改訂でも、なぜこの期間目標だけは見直されないのか。
政府や東京電力による工程決定プロセスを振り返ると、「スリーマイル」と「チェルノブイリ」という原発事故対応の先例に対するレビューが論拠に用いられてきたことが分かる。
両事故を単純化した上で「スリーマイルモデル」を模範とし、「チェルノブイリモデル」を「真似してはならぬシナリオ」と示すことで「30~40年廃炉工程」や「10年後デブリ取り出し開始」、「(その後)即時施設解体」という工程が正当化されてきた。
次回はこの先例レビュープロセスから振り返ってみたい。
おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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