処理水放出 IAEAの助言は無効 ―【尾松亮】廃炉の流儀 連載22
福島第一原発事故から10年以上が経過した今、我々が認識しなければいけないのは「廃炉は行われていない」「廃炉計画は存在しない」という制度上の現実だ。いわゆる「40年工程」を示した中長期ロードマップは政府の指示で策定され、その時々の政府判断で改訂できる計画書に過ぎない。
原子力規制委員会規則によれば、廃炉終了のためには「核燃料物質の譲渡し完了」「放射線管理記録の引き渡し」などが求められる。つまり制度上は「使用済み燃料が搬出され、放射線管理がこれ以上必要ない」という状態を目指すプロセスが「廃炉」である(本連載第18回参照)。福島第一原発のロードマップは「廃炉」「廃止措置」という言葉を使いつつ、その実「デブリ取り出し完了や原子炉解体」までを約束するものではない。現状、福島第一原発で行われているのは事故炉および損傷した核燃料の「保安・防護」に係る作業であって「廃炉」「廃止措置」ではないのだ。それにもかかわらず、政府は「廃炉を前に進めるため」との理由で、さらなる環境汚染を引き起こす作業(処理水海洋放出等)や労働者の被ばくリスクを高める工程(デブリ取り出し早期着手等)を正当化してきた。
法制度上、廃炉は行われていないにもかかわらず「廃炉」「廃止措置」という言葉を使い、福島第一原発に対する施策を正当化しているのは日本政府だけではない。IAEA(国際原子力機関)は日本政府の処理水処分に関する報告書をレビューし、廃炉終了までに処理水処分を完了する計画を支持した。同レビュー(2020年4月2日IAEA Follow-up Review)では「廃止措置作業終了時点までに(原文by the time of the end of the decommissioning work)ALPS処理水の処分を完了するという提案された目的は現在ある国際的な好事例に沿ったものと考える」と述べられている。このレビューで、IAEAは海洋放出の選択肢を含め処理水処分を進めることにお墨付きを与えた、とされる。
ここでは「the decommissioning work(廃止措置)の終了時点までに」という用語が使われていることに注意が必要だ。この言葉遣いは、IAEAが福島第一原発で行われている工程を理解していない(あるいは曲解している)ことを示している。
先に述べた通り、法制度上、福島第一原発でIAEAの定義に沿う「the decommissioning work」は行われていない。前記IAEAのレビュ
ーは、そもそも廃止措置ではない工程を「the decommissioning work」と呼び、その工程終了時点までの処理水処分を容認しているのだ。日本の法制度を無視したレビューであり、法的な誤解に基づく助言として撤回を求める必要がある。
経済産業省によれば、12月中旬にもIAEAレビューミッションが訪日し、①放出される水の性状、②放出プロセスの安全性、③人と環境の保護に関する放射線影響等に関するレビューが行われる予定だったが、新型コロナの影響で延期となった。
福島第一原発でIAEAガイドラインの定義で言う「the decommissioning work」は行われていない。IAEAがその根本認識を間違えたまま「廃炉の一工程」であるかのように処理水海洋放出をレビューするなら、専門機関としての信頼性が問われる。
おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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