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〝最前線〟で戦う萩原美樹子さん|【生島淳】【スポーツ】東北からの声1

 NHKの朝の連続テレビ小説『虎に翼』を、毎日楽しみにしている。笑ったり、時にジーンとしたり。

 伊藤沙莉演じる女性弁護士、猪爪寅子。彼女の葛藤は、令和の社会問題と通底しているものがあり、メッセージ性の強いドラマになっている。女性の社会的地位の不安定さ。仕事と家庭のバランス。男性の社会的役割の意味。毎朝、嫁さんとドラマを見ながら、こう考える。

 果たして、自分が家庭内で担ってきた役割は、妥当だったのだろうか?
 寅子の葛藤に心穏やかでない日もあるのだが、目を令和の日本に転じると、スポーツ界では女性指導者の少なさが問題になっている。昭和の時代、女性弁護士が少なかったのと同様に――。

 スポーツ庁が作成した資料によると、スポーツ指導者全体のうち、72・5%が男性、27・5%が女性というデータが出ている。これは特定の競技に限ったことではなく、ほとんどのスポーツにおける共通課題である。ちなみに、バスケットボールにおいては女子・女性プレーヤーは全体の約41%を占めているが、女性コーチは25%、女性審判にいたっては19%と、その割合がグッと低くなってしまう。

 政界に経済界、マスコミにおける女性管理職の割合の低さの改善には時間が必要だが、スポーツ界も例外ではないのだ。

 先日、私が担当する早稲田大学のスポーツジャーナリズム論において、福島市出身の萩原美樹子さん(写真)をゲストに招いた。

 萩原さんは福島女子高(現橘高)出身。「ほとんどの同級生が大学進学するなかで、私はバスケットボール選手の道を選びました」と、共同石油(現ENEOS)へ入社する。そして1996年のアトランタ・オリンピックに出場、その後、現役を引退した。

 「バーンアウトで引退しました。バスケットボールから離れたかったのと、高校時代から早稲田で勉強したかったこともあり、通信教育で受験勉強をして文学部に入りました」

 社会人を経験したあと、大学で勉強するのは刺激的だったという。

 経済的な理由もあってコーチングの世界に足を踏み入れると、早稲田大学をインカレで2度の優勝に導き、その後はアンダーカテゴリー(18歳以下)の日本代表の指導に当たった。

 「今度、パリ・オリンピックに出場する選手のほぼ全員が、ジュニア時代に私が指導した選手たちです」

 いまはWリーグの東京羽田ヴィッキーズのヘッドコーチとして活躍するが、女性コーチの少なさはずっと実感してきた。萩原さんはこう話す。

 「ただ待っているだけで、女性指導者が増えることはまずないと思っています。やはり協会が力を入れることが必要です。自然と増えるのを待つのではなく、ボトムアップしていく姿勢が求められていると思います」

 社会は自然に変わるのではない。変えるという意思、行動が社会を変えるきっかけとなっていく。

 数少ない女性指導者として最前線で戦ってきた萩原さんの言葉は貴重だ。もちろん、数を増やすのが最終目的ではない。指導者の多様性を担保すること、それがスポーツの豊かさにつながると思うのだ。


 いくしま・じゅん 1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大卒。博報堂で勤務しながら執筆を開始し、99年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る。最新刊に『箱根駅伝に魅せられて』(角川書店)。


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