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東海再処理施設でのガラス固化完了は2030年代後半?|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊼

 冒頭、令和6年能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げ、亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族に哀悼の意を表します。

 報道・SNSを通じ、暖房や温かい食料などが十分に行き届かないとの情報も伝えられています。一刻も早く、復旧・復興の道筋が見えることを願っています。

 この地震による地殻変動や被害、更に志賀原発(北陸電力)との関係など、特にオフサイト(敷地外)の対応について多くの教訓と示唆が与えられたと思われますが、論点が多くなるので、本稿で取り上げるのは控えます。

 本題です。

 当連載で東海再処理施設(注1)を取り上げるのは3回目です(注2)。
 簡単におさらいします(ドラマ風の表現を用いるなら「これまでの粗筋」です)。

 第35回でお伝えしたように、この施設で貯留されている高放射性廃液(放射能量は約300~310京ベクレルと推定)のガラス固化は2022年9月に中断し、同年12月、機構は、ガラス溶融炉を2号炉から3号炉へ更新(リプレース)した上で再開することを表明しました。

 ここまでがおさらいです。

 その後、良いニュースと悪いニュースがありました。

 良いニュースは、3号溶融炉の運転条件確認試験です。この試験は2023年11月に開始され、12月20日の原研機構の説明によると(原子力規制委員会の「第73回 東海再処理施設安全監視チーム会合」/注3)、スペック通りの動作が確認できており、試験は2024年1月12日まで継続するとのことです。

 悪いニュースは、溶融炉が設置されている作業スペース(固化セル/注4)で解体や片づけを行っている「両腕型マニプレーター」(略称はBSM/注5)と呼ばれる遠隔操作の治具が、2023年6~7月に2基とも故障したことです。

 内、1基は、2023年12月上旬に回復しましたが、もう1基は故障原因の特定に時間がかかっています(何れも第73回チーム会合で機構が報告)。

 BSMが不具合を起こした関係で、2号炉の撤去が遅延しており、炉のリプレーススケジュールにも影響が及びます。この為、高放射性廃液のガラス固化再開も当初予定(2025年第4四半期)から、後ろ倒しされます。

 ガラス固化完了までの全体工程は、元々、「2028年度完了予定」とされていましたが(2016年11月末に機構が提示)、第73回チーム会合で機構が提示した新たな工程表では、左のように改められました。

 「最短ケース:2025年度第4四半期(2026年1~3月)再開目標/2035年度完了目標」

 「基本ケース:2026年度第1四半期(2026年4~6月)再開目標/2038年度完了目標」

 私は、機構を悪戯に貶めるつもりは有りませんが、BSMの不具合が解消されていませんし、炉のリプレースが終わるまでに何があるのか分かりません。又、3号炉の稼働率もどうなるか不明です。不確定要素が多いので、新たに提示された工程は「参考程度」と見ています。先ずは、2号炉の撤去が進められるのかどうか、注視しています。

 それにしても、機構が提示した最短ケースでも「2035年度完了目標」であることには、暗澹たる思いです。

 前回(第46回)は、「フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)で発生しているALPSスラリーの固化開始が2035年前後の見込み」であることを取り上げました。

 東海再処理施設で最もリスクの大きい高放射性廃液のガラス固化も、完了が早くても2035年度です(念の為に追記しておきますが、東海再処理施設で安定化させたり取り出すべき放射性廃棄物は、高放射性廃液だけではありません。その他の廃棄物についても課題が山積しており、施設全体の廃止完了まで約70年を要すると見込まれています)。

 この国は、核発電を開始した世代、それによる電気を最も多く消費した世代、核災害を起こした世代が「逃げ切る」ようになっているのでしょうか? 核発電や核災害で発生した諸々の「放射性廃棄物」の安定化や、保管・処理・処分は、核技術による電気を殆ど用いていない世代に委ねざるをえません。その世代は、核技術を発電に用いることの賛否について、何らの意見も表明できませんでした。

 これは世代を超えた犯罪であり、道理の無い「押し付け」でしょう。

 この「世代間格差」は、オンサイトだけではなく、オフサイトでも同様です。

 私は、フクイチ核災害の被害者が国・東電を相手取って責任の明確化・損害賠償を求めている集団訴訟も、時間の許す限り傍聴しています。

 その中で、発災当時は未成年であった原告の意見陳述や本人尋問を傍聴することもあります。

 「小学生で避難し、避難先でいじめにあった。『金を貰ってる』(注6)と言われ続け、それがいじめだとは当時は気付かなかった」「幼少期や小学生の頃に住んでいた福島県内の家で線量を測ったら、放射線管理区域相当の値が計測された。とても帰れない」「幼い頃に福島県から避難した。安心して話せる場で、避難してきたことを話したら、福島県内での生活をはっきりと覚えていないのに、自分でも分からないまま泣き出した」等々(鍵括弧内は全て要旨)、発災当時に未成年であった方々のこのような声に触れ、報告集会での発言を聞く度に、私は、控え目に形容しても「心がざわつき」ます。

 フクイチ核災害や、核施設のリスクを追っていくと、必ず、大きな世代間格差にぶち当たります。

 フクイチ核災害や、核発電を採用・推進してきたことについて、国会・行政・原子力事業者の責任を追及するのは必要且つ当然としても、「核に関する世代間格差」については、社会的にどれだけの注意が払われているでしょうか? この格差を極力縮小させることにも、目が向けられるべきではないでしょうか。

 注1 茨城県那珂郡東海村村松/所管しているのは「国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構」(原研機構)。正式名称は「核燃料サイクル工学研究所」内の「再処理廃止措置技術開発センター」。2018年6月以降、廃止措置中。

 注2 第25回(2022年4月号)/

 第35回(2023年2月号)/

 注3 

 注4 簡潔に書くと、鉄筋コンクリートで遮蔽された部屋。高放射性廃液を扱う部屋内は高線量になる為、放射線を遮蔽できるように分厚い鉄筋コンクリートで囲われている。

 注5 Bilateral Servo Manipulator[バイテラル・サーボ・マニプレーター]

 注6 「賠償金が支払われた」と報道されたことによるものと思われる。

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