祝!東日本の「原発ゼロ」10周年―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉖

 今回の記事は、連載15回(2021年6月号/注1)の続きに相当するものです。

 2011年3月に東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)で核のリスクが顕在化して以降、日本では原発(核発電)を巡る情勢は一変しました。

 法的な「原発の利用禁止」(=法的な「原発ゼロ」)は未だ実現していませんが、2012年9月に設置された原子力規制委員会が定めた基準(炉規法[注2]の規定に基づいて策定/以後、「新規制基準」)を満たした原子炉しか稼働が認められなくなりました。21年5月初旬時点で、新規制基準を満たしている商用発電用原子炉の出力合計は913万キロ㍗で、電気事業法上の認可出力3308万㌔㍗の3割弱です(「グラフ1」参照/注3)。

 

 フクイチ核災害の発生から数年の間は、「石器時代に戻る」という表現まで用いて「原発擁護・原発利活用」を訴える意見が聞かれましたが、11年経ってどうなったでしょうか。

 原発による発電量はフクイチ核災害以前に比べて激減し、2014年度にはゼロになりました(「グラフ2」参照)。全国レベルでの「原発ゼロ」は継続しなかったものの、2020年度の全国の電力供給量の内、原発由来の電力は僅か4%に過ぎません。

 又、「再稼働」している原子炉は西日本ばかりで、東日本(注4)で新規制基準適合性が認められた原子炉は有りません。「東日本の原発ゼロ」は、今年の5月で10周年です。2012年5月5日に泊原発3号機(北海道電力)が停止して以来、東日本で原発は稼働していません。

 東日本は人口規模・経済規模で都市部としては世界最大である首都圏を含み、人口は約6100万人です。この東日本が「原発ゼロ」10周年を迎えました。「論より証拠」です。「原発ゼロ」で電力供給に全く問題は無いのです。

 「営業運転の実績の無い期間が10年超の原子力事業者」も増え続けています。5月時点で、国内で商用発電用原子炉を持つ10事業者の内、7事業者(北海道電力・東北電力・東京電力・北陸電力・中部電力・中国電力・日本原子力発電)が、10年以上、原発を稼働できていません。これらの事業者は、「原子力事業者」としては形骸化しつつあると言って良いでしょう。例えるなら、事故が契機で営業運行が10年以上途絶え、再開の見通しも立っていない鉄道事業者が「我が社は鉄道事業者です。運行が再開できれば、確りと安全運行・定時運行に努めます」と言っているようなものです。

 大間原発(青森県大間町/電源開発)の建設は、2011年3月から中断しています(安全強化対策工事開始予定は2022年後半。完工目標は2027年後半/注5)。建設工事が10年以上中断し、完工時期も不透明なのですから、普通に考えれば建設中止でしょう。

 日本原燃の六ヶ所再処理施設も2022年度上期完工はほぼ不可能で、工事計画を全て規制委員会に申請する段階にも至っていません。

 更に、グラフにはしていませんが、日本国内の電力需要は10年間で約12%減少しています(2010年度1兆0564億キロワットアワー→20年度9301億キロワットアワー/注6)。今後も、人口減・世帯減・少子化・高齢化・省エネの推進等で、電力需要の減少傾向は変わらないでしょう。

 そもそも、フクイチ核災害で核のリスクが不可逆的(=取り返しがつかない)であることが顕在化したのですから、核をエネルギー源・動力源とする政策や事業は継続すべきではないのです。

 原発は不可逆的なリスクが有り、あらゆる意味で事業として成り立たなくなる途上にあります。電力事業者は国策に関わらず、速やかに減損処理して手を引くべきでしょう。「勇気ある撤退」という表現もあります。

 私はこれからも、フクイチ核災害を防げなかった国民(主権者)の一人として「原発ゼロ」を求め、消費者として「原発を用いない電力事業者」を選んで契約します。

 本稿の最後に、見出しから外れる内容を二つ取り上げることをご容赦下さい。

 一つ目。

 今年1月から進められていた、フクイチの「処理水」放出設備に関する原子力規制委員会の審査は、4月15日に実質的に終了しました。(注7)。

 この設備に関しては、原子力規制委員会が5月には任意のパブリックコメント(意見公募)を開始すると思われます。

 二つ目。

 東電の4月18日付け資料によると(注8)、フクイチ1~4号建屋への2021年度の雨水・地下水の流入量は、約4割が3号タービン建屋、約2割が2号原子炉建屋へのものだったそうです(計算値)。

 東電はこれを踏まえ、先ずは3号建屋を対象に新たな止水方法を検討していくとのことです。

注1

注2 正式名称は「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」。

注3 グラフと注釈は、経済産業省・日本原子力産業協会・各電力事業者のWebサイトを元に春橋作成。

注4 電源周波数50㌹の北海道電力・東北電力・東京電力の管内を指す。

注5 J-POWERグループ統合報告書2021年 38-39頁

https://www.jpower.co.jp/ir/pdf/rep2021/21.pdf

注6 「電気事業便覧」

注7 東京電力福島第一原子力発電所 多核種除去設備等処理水の処分に係る実施計画に関する審査会合

https://www.nsr.go.jp/NuclearRegulation/ALPS/index.html

 注8 

https://www.nsr.go.jp/data/000387138.pdf


春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。

*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ

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