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増設焼却炉から見る東電のマネジメント―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉝

 東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)では、核災害の収束作業が続いており、それに伴って放射性廃棄物も発生し続けています。

 今回は、当連載としては3回目、1年振りに固体廃棄物を取り上げます(注1・2)。

 フクイチの放射性固体廃棄物の保管量推移や、廃棄物の発生からのフローは別掲の通りです。

 減容・減量処理で顕著な進展が見られるのは「使用済み保護衣」です。雑固体廃棄物焼却施設(注3)が安定稼働している証しでしょう。

 フクイチ敷地内では、増設雑固体廃棄物焼却施設(以後、「増設焼却炉」と略)も設置されています。東電は、使用済み保護衣以外の可燃廃棄物の内、伐採木の屋外保管解消を優先しており、増設焼却炉をその用途に充てていますが、増設焼却炉はトラブル続きで、安定稼働とは程遠い状態です(「まとめ2」を参照)。


 当初予定では2020年度上期(つまり、遅くとも20年9月まで)には運転を開始する筈でしたが、下期へと変更され、具体的な時期も20年12月から21年3月へと後ろ倒しされました。しかも、その理由が、電力の使用量の計算を間違えたというものです(注4―1・2)。電気屋である東電が発注しているのに、何をしているのでしょう?

 遅延はそれにとどまらず、設計・施工不備で更に1年遅れ、22年3月の地震も追い打ちをかけ、運転を開始したのは22年5月下旬です。当初予定から、実に2年弱の遅延です。

 問題は運転開始後も続き、本年10月末時点で運転開始から5カ月強が経過しているのに、稼働できたのは30日強です。到底「確実・計画的」に進んでいるとは言えません。

 東電は自ら大々的には言っていませんが、増設焼却炉の運転開始が遅れた為に、伐採木の屋外保管解消時期も、当初予定の24年度から25年度へと、1年延期されました。

 これは重大な変更・計画遅延でしょう。それが書類にしれっと書かれただけで公表されているのです。

 連載第3回でも指摘したように、フクイチの放射性固体廃棄物の大半は屋外保管です。万一、火災に巻き込まれれば、放射性ダストが、フィルターを通さず、計測も出来ず、非管理の状態で環境中に放出されてしまいます。リスク低減の為にも、放射性廃棄物の屋外保管は一刻も早く解消し、遮蔽・監視・防火機能が整っている堅牢な貯蔵庫での保管に切り替えなければいけません。

 増設焼却炉の運転開始遅延や稼働停止の理由の大半は、人為的なものです。直接の原因は元請けである日本ガイシ(注5)かも知れませんが、発注者責任は東電に有ります。ALPS(多核種除去設備)のように、初めて導入する設備ならともかく、焼却炉なのですから、設計・設置の前例はあるでしょう。元請けの設計・施工をチェックできなかった東電の責任は重大です。東電の社員は、核災害の現場のリスク低減を目的とした設備であるという認識を有しているのでしょうか?

 不確実な核災害の現場だからこそ、不確実・不確定な要素を少しでも減らしていくマネジメントが求められるのに、増設焼却炉に見られるように、東電はそれができているとは言い難い状況です。

 言葉は悪いのですが、「ゴミの処理すら自らの計画が達成できていないのに、原発再稼働とか、福島復興とか、よく言えますね」と嫌味も言いたくなります。

 一方で、東電のマネジメントを批判することが、現場への負荷に繋がってはいけません。急かせることで、更なる故障・不具合や人身災害に繋がることがあってはなりません。

 フクイチの課題やリスクは「処理水放出」だけではありません。特定のリスクに目を奪われれば、別のリスクの顕在化に繋がりかねません。

 報道も、国民も、「フクイチのリスクや現状を総合的に捉える」「現場への負荷を増やさない」ことを前提に、東電のマネジメントを監視していくべきでしょう。

 注1 2020年6月号(第3回)/「増え続ける放射性固体廃棄物」

 注2 2021年12月号(第21回)/「屋外保管が続く固体廃棄物」


 注3 2016年3月にフクイチ構内で運用開始。日量処理可能量は約14㌧。排気の除染係数は100万。元請けは株式会社神戸製鋼所。
 注3参考

 注4―1 

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2020/04/


3-4-1.pdf 「増設雑固体廃棄物焼却設備」の備考に赤字で「※電源供給設備改修に伴い竣工予定は、2020年12月→2021年3月に変更」と記載

https://www.tepco.co.jp/decommission/data/deviation/archive/pdf/2019/200330-j.pdf

 注4―2 パフォーマンス向上会議情報(2020年3月30日分)
  注5 東京電力福島第一原子力発電所向け「増設雑固体廃棄物焼却設備」を受注(2017年7月13日付リリース) 


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