【高橋ユキ】のこちら傍聴席20|絶えない恋愛感情につけ込む詐欺
SNS上のやりとりで恋愛感情を抱いた相手から金銭を騙し取られる「ロマンス詐欺」の被害が各国で相次いでいる。福島も例外ではない。昨年9月には白河市に住む60代男性から、40代の中国人女性を名乗る人物の話を信じ、1700万円もの現金を騙し取られたと白河署に届け出があった。同署によると男性は昨年8月上旬ごろ、SNSに届いた見知らぬ相手からのダイレクトメールに返信したことをきっかけに、中国人女性を名乗る人物と日本語でのやりとりを始めた。「一緒に生活したい」などのメッセージを受け取ったのち、偽の投資アプリなどを介するFX取引を求められ、これを信じた男性は、相手から指定された多数の銀行口座に約20回に分けて1700万円を振り込んだという。
「ロマンス詐欺」の犯人は海外に住んでいることも多いため、なかなか被疑者逮捕には至らず、被害者は泣き寝入りすることも珍しくない。しかし今年5月、なんと二本松署がロマンス詐欺犯の逮捕を発表した。すでに窃盗と電子計算機使用詐欺で起訴されているその逮捕者は、愛知県豊田市に住むフィリピン国籍のアルバイト、黒瀬アリンダことクロセ・アーリンダ・ベルガラ被告(67)。SNSを使用したロマンス詐欺犯の逮捕は県内初。クロセ被告は昨年11月から今年1月にかけ、ウクライナに住む日本人の男性医師をかたり、SNSで知り合った二本松市に住む70代女性に対し、恋愛感情を抱かせるメッセージを送信し、クロセ被告名義の銀行口座に現金50万円を振り込ませたとされる。
相手に恋愛感情を抱かせた上で金を騙し取る手法は、ロマンス詐欺に限らない。結婚詐欺師は直接知り合った相手に甘い言葉を囁き、結婚をちらつかせる。日本全国を転々としながら出会った女性に対して結婚詐欺を繰り返していた男、前田征美(公判時51)は、福岡での寸借詐欺により全国に指名手配されながらも詐欺を続け、2022年11月、大阪で捜査員に見つかり逮捕された。事件化されなかった詐欺も複数あり、総額450万円を騙し取られたAさんに、昨年取材した。
「店で初めて会ってから、連絡が来るようになり、そのうち付き合って欲しいと言われるようになったんです。一カ月くらいは断っていました。すると『お茶でもしようよ』と言われて近所の喫茶店で会うことに。しっかり断ろうと思っていたところ、指輪を見せてきて『待ちますから』みたいなことを言われて。それから数カ月、毎日のように『愛してるよ』とLINEが来たり『お茶でもしない?』と言われて、だんだんとこちらも気持ちが動いてきて……」
こうして前田との交際が始まったという。前田はAさんに対して〝電気工事会社の代表〟を自称しており、この偽りのプロフィールを騙しに使った。最初は「事務員の子が間違って入金し、今月の支払いができなくなった」などと言い、Aさんに50万円を用意させる。その後も仕事のトラブル名目で、Aさんに金を無心していった。そして「君との将来を考えている」と匂わせながら金の無心をする前田に渡した金額が450万円にのぼったころ、前田は突然、Aさんのもとから姿を消した。
「最初は恋愛目的だった」などと述べていた前田に対しては昨年7月、福岡地裁で懲役3年2月の実刑判決が言い渡されている。
たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。
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