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固体廃棄物の2028年度「屋外保管解消」に黄色信号?|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中56
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)に設置されている増設雑固体廃棄物焼却設備(以下「増設焼却炉」)が今年2月に停止したこと、停止が年単位に及ぶのが確実であることは、連載53回(2024年8月号/注1)で取り上げました(紙幅の関係で、長期停止の原因を本稿で再度説明するのは省きます)。
東電が原子力規制委員会の会議に提出した資料によると(注2)、「増設焼却炉の貯留ピットには注入した水と木材チップが混ざったものが推定・約1400立方㍍滞留(チップ800立方㍍+水600立方㍍)し」、「本年10月までに回収する見込み」でした。
ところが東電は、回収完了予定時期について、10月15日の定例記者会見で、口頭で「本年12月に変更する」旨を説明しました(自らに不利なことは書面での説明を極力回避しようとしているようです。東電の「説明の姿勢」に踏み込むと長くなるので控えます)。
9月25日現在の水とチップの残量は合わせて約520立方㍍です(9月26日資料/注3)。回収は3月22日から開始されていますから、約6カ月間での回収量は900立方㍍です(1カ月平均で約150立方㍍)。
水とチップを回収して貯留ピットを綺麗にすることはゴールではなく、そこからが本番です。ピット内への注水による影響を調べなければならず、調査結果に基づいて、復旧工事・改造工事も必要です。
東電は、増設焼却炉の稼働再開時期の目標を2025年度上期末としていますが、現状では改造工事や運用見直しの計画すら明確ではありません。
私は、改造工事等に要する期間も含めると、あと1年程度で増設焼却炉の稼働を再開するのは厳しいのではないかと見ています。
一方で、東電は「再利用分を除いて、2028年度に(フクイチ構内での)固体廃棄物の屋外保管を解消する」目標(注4)を変更していません。遅くとも2029年3月末です。本稿掲載時点からカウントすると、残り期間は約4年半です。
現状では、増設焼却炉の稼働再開を待ちつつ既設焼却炉だけを稼働させる運用(当面は使用済み保護衣の焼却を優先)が続きます。
焼却炉は既設・増設を合わせて運用し、使用済み保護衣とチップ化した伐採木を並行して減容処理(焼却)する計画でした。ところが、増設焼却炉は停止から半年以上経って、調査の予定も立てられていません。
東電も、このままでは「2028年度目標」の達成が厳しいことは認識しているのではないでしょうか?
私がそのように推測するのも、根拠がない事ではありません。
今年9月6日、東電は原子力規制庁に「1F構内から発生する生活ごみについて」と題する資料を提出しています(注5)。主旨をまとめると、次のような内容です。
「フクイチ構内の休憩所(非管理区域、或いは放射能汚染の恐れのない管理区域)では、弁当屑や食品容器等が生活ごみとして1日平均・約5立方㍍(年間・約1800立方㍍)発生している」
「これらの生活ごみは構内の焼却炉で処分している」
「日々発生する生活ごみを構外搬出して処分することを検討している。この件について(原子力規制委員会・規制庁の)意見を伺いたい」
「フクイチ構内では、これまでに発生した生活ごみ約1000立方㍍を保管しているが、今回の相談の対象外」
原子力規制庁は東電に対して「『放射性廃棄物でない廃棄物』の取り扱いを実施計画上に新たに定めることを含め、構外搬出して処分するための当該廃棄物の法令上の位置づけ、実施計画上の位置づけ等を整理し、(東電としての)考え方を改めて示すこと」とコメントしています(注6)。
10月23日現在、東電の考え方は示されていません。規制庁への回答を検討中と思われます。
東電が、放射性廃棄物でない生活ごみの構外処分を検討しているのは、構内で焼却する廃棄物の量を少しでも減らそうとしているのが理由と推測されます。
当連載で何度か指摘しているように、フクイチでは、放射性固体廃物の大半は屋外保管です。万一、構内の火災で固体廃棄物が炎上すれば、放射性ダストが周辺環境にまき散らされる可能性が有ります。
生活ごみの扱いも含めて、フクイチの固体廃棄物の保管管理に関する情報は引き続き追っていきます。
最後に、見出しから外れることをご容赦下さい。
フクイチの「処理水」希釈放出(投棄)は、本年10月14日に累計9回目が終了しました(注7)。これまでに放出された水量・放射能量・化学物質量は別掲の通りです。
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注1/
注2/第112・113回「特定原子力施設監視・評価検討会」
112回(24年4月)の資料1―3
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100001342contents=NRA100001342-002-004#pdf=NRA100001342-002-004
113回(24年7月)の資料1―1
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100003606?contents=NRA100003606-002-003#pdf=NRA100003606-002-002
注3/
注4/
https://www.nra.go.jp/data/000463592.pdf
注5/
(「生活ごみ」に関する資料は全体の39・40頁)
注6/
注7/
https://www.tepco.co.jp/decommission/information/newsrelease/reference/pdf/2024/2h/rf_20241015_1.pdf
春橋哲史 1976年7月、東京都出身。2005年と10年にSF小説を出版(文芸社)。12年から金曜官邸前行動に参加。13年以降は原子力規制委員会や経産省の会議、原発関連の訴訟等を傍聴。福島第一原発を含む「核施設のリスク」を一市民として追い続けている。
*福島第一原発等の情報は春橋さんのブログ
月刊『政経東北』のホームページです↓
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