【高野病院】異世界放浪記⑫
みなさんと一緒の異世界放浪も最終回。今日は異世界の言葉について勉強してみたいと思います。私が昨年4月号で意味が分からないと言っていた「フッコウ」を選んでみました。毎年3月が近づくにつれて、世の中にはその言葉があふれ、笑顔の写真と共に新聞や雑誌に掲載されますが、いまだに意味がまったく分からない私。最終回のために真面目に「フッコウ」について考えてみたのです。
いきなりこの世界に飛ばされた時、マスコミと呼ばれる人達に囲まれて「今何が一番欲しいですか」「どうして欲しいですか」と聞かれたなぁ。そりゃ「元いた世界に帰してください」「日常を返してください」が一番の望みだったけど、異世界へは一方通行が王道。どんなに泣いても騒いでも、戻れないのは理解していました。だったらせめて異世界らしく錬金術か若返り……いっそ魔王になりたいって言っても、誰も聞いてくれなかったけどね。
しかしこの世界、実は魔法が存在していたのですよ。偉い人達が「フッコウキキン」、「コウキョウジギョウ」という呪文を唱えると「箱モノ」と呼ばれるものが次々と現れたのですよ。「箱モノ」がニョキニョキとそびえたち、道路もきれいになり、道端には花が植えられ、環境が整備されると、みなさんこぞって「フッコウ」という言葉を使いました。その場所に人がいてもいなくても、本当に必要かどうかは関係なく、魔法の呪文で箱モノが現れたり道路がきれいになることが「フッコウ」なのでしょうか。
そう考えると、5年かかった高野病院下の道路整備工事は「フッコウ」じゃなかったんだなぁ。工事期間は何度も延長され、私達だけではなく、通院する患者さん、救急搬送の患者さん、来客や面接にいらっしゃる方達まで不便を強いられました。最初の1年位は、救急車のサイレンの音が近くなったのにまた遠ざかると、「あ、迂回路で迷ったな」と、搬送されてくる患者さんを心配したものです。人が住んでいない対岸の工事はあっという間に終わり、植えられた松や桜がぐんぐん育ったころに、こちら側の工事がやっと終わりました。対岸は「フッコウ」だったけど、こちら側は「フッコウ」じゃなかったのでしょうか。
実は私も呪文を勉強してみたのですが、どうしても「コウキョウ」と唱えられず、出てきた呪文は「ミンカン」。おいしそうなこの「ミンカン」という呪文は、なんと「コウキョウ」とは真逆で、破壊力が抜群でした。うっかり「ミンカン」と口にしたら、「フッコウ支援リスト」という巻物に沢山書いてあった、支援策がいきなり消えてしまったのですよ。え?これもあれも「コウキョウ」が言えなくちゃダメなの?と、残ったいくつかの支援策を眺めながら途方に暮れたのです。この世界で「ミンカン」呪文は、自分達が消されてしまうほどの威力がある禁呪だったようです。
ここ数年マスコミの方達から「どうなればフッコウだと思いますか?」と聞かれても、意味が分からなくて答えられなかったけれど、これまでのことを学習した今なら「高野病院の建物が新しくなったらフッコウですね」とはっきり言えます。だって「フッコウ」ってそういうものなんですよね? 「フッコウ」するために、新しい高野病院を建設しなくちゃ!いつか誰かが高野病院にコウキョウ魔法をかけてくれるといいなぁ。ここ双葉郡が、他の何からも異ならない世界になった時に、またお目にかかりましょうね。高野病院はずっとここに、この場所に。そしてみなさんの心の中にもずっといるよ。
たかの・みお 1967年生まれ。佛教大学卒。2008年から医療法人社団養高会・高野病院事務長、2012年から社会福祉法人養高会・特別養護老人ホーム花ぶさ苑施設長を兼務。2016年から医療法人社団養高会理事長。必要とされる地域の医療と福祉を死守すべく日々奮闘。家では双子の母親として子供たちに育てられている。2014年3月に「高野病院奮戦記 がんばってるね!じむちょー」(東京新聞出版部)、2018年1月に絵本「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店)を出版。
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