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【尾松亮】デブリ取り出し「奇妙な〝着手〟の定義」|廃炉の流儀 連載55
東電は9月10日、デブリの試験的取り出しを始めたと発表した。取り出し装置で燃料デブリに触れたわけでも、一部の取り出しに成功したわけでもない。9月17日には取り出し装置のカメラ映像が確認できないなどの理由で、取り出し作業が中断されたが、「着手」は成功したことになっている。これにより廃炉は「次の段階に進んだ」とされる。
9月10日の記者会見で林芳正官房長官は「今回の着手で工程表の第三期に移行した」と強調した。政府と東電の「廃炉に向けたロードマップ」では、作業の期間を三段階に分けており、燃料デブリ取り出しの開始からロードマップ終了までを最後の「第三期」と位置づける。この「試験的取り出しの着手」によって、第三期に「進んだ(移行した)」というのが政府の評価だ。
取り出し装置に不備が生じ、作業が中断されたのに「取り出し着手」は成立という。東電と政府は、何をもって「着手」とみなしたのか。
2024年9月10日付の日本経済新聞によれば「原子炉につながる貫通部手前に放射線の拡散を防ぐ弁がある。回収に使う装置がこの弁を通過すれば『取り出し着手』と定義している」。9月10日にデブリ回収装置がこの弁を通過し、60㌢ほど過ぎた位置で装置を止めた。だから燃料デブリ取り出し「着手」は成立した。おかしいと思わないだろうか。
「取り出し着手」と聞けば「取り出し作業が始まった」という期待を持って受け止めざるをえない。成功するかどうかは別として「デブリをつかみ回収する作業が始まった」かのように聞こえる。しかし実際には「装置が弁を通過した」だけなのだ。 しかもこの「装置を弁に通す」作業は、相当の高線量下で行われ、作業員をリスクにさらす行為であった。8月22日には、デブリ取り出しのための装置をつなぐ順序にミスがあり作業が延期された経緯がある。この問題について、東京電力は「現場が高線量であったことから、棒の運搬作業を途中で中断したことが、次の日の作業員に伝わらなかった」と説明している(福島テレビ9月8日放送)。
9月10日の「試験的取り出し着手」でも「放射線量が高いため、総勢62人の作業員が交代で作業にあたり、原子炉格納容器の真横にある『隔離弁』の先まで燃料デブリの取り出し装置を入れた」(朝日新聞9月11日付、傍線はいずれも筆者)と報じられている。
「装置を弁の先に入れる」=「デブリ取り出し着手」という形をつくるためだけに、作業員を高線量の現場に送り込んだということにならないか。
「着手した」=「(ロードマップの)次の段階に進んだ」と主張することが重要なのだとすれば、そもそも「弁を通過させる」作業すら必要はない。「(安全な場所で)装置を組み立てた時点で『着手』と見なす」という定義にしてしまえば、高線量下に労働者を送り込む必要はなかったのだ。
「着手」=「次の段階に進んだ」と主張するために奇妙な「着手」定義を振りかざし、作業員を危険にさらすなど、許されることではない。「本気でデブリを取り出す作業だった」というなら、このめちゃくちゃな「定義」は撤回し、「着手失敗」の現実を認めるべきなのだ。
おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。
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