「もんじゅ」のリスクは大きく低減―【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㉜
当連載で高速増殖原型炉「もんじゅ」(日本原子力研究開発機構)を取り上げるのは2回目です(前回は2022年8月号/注1)。
8月16日から開始されていた、炉外燃料貯蔵槽から燃料池(プール)への核燃料の移送は、10月13日に終了し(注2)、「もんじゅ」の核燃料532体が、ナトリウムによる冷却から水による冷却(水冷)に切り替わりました。
「もんじゅ」で冷却材として用いられているナトリウムは、空気に触れると爆発的に燃焼する性質があります。核燃料が浸かっている状態でナトリウムが漏洩すれば、核燃料を巻き込んで炎上し、最悪の場合には放射性物質の大量放出―核災害に繋がりかねないリスクがつきまとっていましたが、核燃料の全てが水冷に切り替わったことで、「もんじゅ」のリスクは大きく低減しました。
2017年1月には「燃料交換機の点検から始めなければならず、原子炉から燃料が取り出せる状態でない」ことが明らかにされ、一時は、「(2016年12月の閣僚会議で)廃止が決められたとは言っても、書類上のことだけで、実質的には進まないのではないか」とも危惧しましたが、2018年8月の燃料取り出しの開始以来、計画的な点検等での中断を挟みつつ、約4年2ヶ月で「もんじゅ」の最大のリスクが解消されました。
核燃料の取り出しだけではなく、ナトリウムのドレン(抜き取り)も進みました。今年5月時点で、「もんじゅ」内のナトリウム約1670㌧(200度容積)の内、約1100㌧がタンク保管されており、残量は500㌧程度です(注3)。ナトリウムの漏洩リスクも低減しています。
この間の、現場の皆様のご努力と働きに、国民の一人として深く感謝致します。
とは言え、「もんじゅ」の廃止措置はこれからも続きます。現状は廃止措置第一段階の終盤で、2023年度に第二段階へ移行予定です。第二段階では、施設の安全確保や核災害の発生防止に必要な機能を維持しつつ(注4)、当面、原子炉内の非燃料体591体(注5)の取り出し(23年6月開始)、水・蒸気系等設備の解体・撤去(同7月開始)が予定されています(注6)。その後も、原子炉・炉外燃料貯蔵槽内のナトリウムのドレン、タンク保管しているナトリウムの所外搬出等、やるべきことは多くあります。
「もんじゅ」のリスクがゼロになったのではありませんが、日本全体で見ると、国や社会を覆しかねない核のリスクの内、少なくとも一つが解消されたのは間違いありません。
今回のリスクの解消は、「核施設の廃止」を決定する意味について、大きな示唆を与えてくれます。
政治の意志としても法的にも「もんじゅ」の廃止を決定したことで、関係機関・関係者がその目標に力を合わせ、施設の状態が着実に改善され、リスクの大幅な低減に結びつきました。
「核施設の廃止」を決定することが、核のリスク低減・解消の第一歩なのです。
「当たり前のことだろう」と言われるかも知れませんが、その「当たり前」の分かり易い実績が、ポスト3・11の日本で初めて作られました。
「もんじゅ」が廃止されたのは、余りにも杜撰な管理で改善の目途が立たず、原子力規制委員会から文科省への勧告に繋がったことが原因ですが(8月号の記事に掲載の「経緯」を参照)、「廃止」を決定する主体は、為政者であり、事業者です。
要は、為政者や事業者を「核施設の廃止を決定せざる得ない状況」に追い込めば良いのです。その為にも、主権者・国民の声の広がりと深まりが必要不可欠です。
「廃止の決定が、核施設の大きなリスク低減に繋がった」という「もんじゅ」の貴重な実例・実績を活かせるかどうか、今後、主権者・国民の取り組みがこれまで以上に問われるでしょう。
こうして、「もんじゅ」のリスクが大きく低減した事実を前にすると、改めて痛感するのは、東京電力・福島第一原子力発電所(以後、「フクイチ」と略)での核災害の発生を防げなかった悔しさです。
「もんじゅ」のリスク低減は、「間に合ったリスク低減」ですが、フクイチのリスク低減は間に合いませんでした。
「もんじゅ」で今出来たことが、どうして、12年前にフクイチで出来なかったのでしょうか? 12年後に出来たのなら、12年前にも出来た筈です。東北地方太平洋沖地震が発生した際に原子炉に核燃料が装荷されていなければ、メルトダウンも水素爆発も無かったでしょう。
この国の主権者の一人として、フクイチ核災害を防げなかったことは、本当に痛恨の思いです。
フクイチのリスクに警鐘を鳴らしている人はいましたし、東電が情報隠しをしていたのも分かっていたことです。2007年7月の新潟県中越沖地震では、柏崎刈羽原発が破損しました。
リスクに気付く機会は何度もあったにも関わらず、それに気付かない、或いは気付かないふりをしていたのが、私も含めて多くの主権者の対応だったでしょう。
「もんじゅ」の最新の情報を確認していて、これまで何度も傍聴してきた、国・東電を被告とした集団訴訟での原告の意見陳述・本人尋問の様子が頭の中でグルグルと回りました。特に、発災当時、未成年だった方には、お詫びのしようもありません。
「12年後に出来て、どうして、12年前に出来なかったのか」と訊かれれば、項垂れるしかありません。
最後に、お知らせです。
前回にワイド版として掲載した「経産大臣への申し入れ」については、筆者のブログに、申し入れ当日の口頭説明の文字起こしも含めて、申し入れの全文と回答をアップしました(注7)。
注1:「もんじゅ」—フクイチ以外のリスク・その2
注2:「高速増殖原型炉もんじゅ燃料体取出し作業について」(10月14日の原研機構のリリース)
https://www.jaea.go.jp/04/turuga/jturuga/press/posirase/2210/o221014.pdf
注3:原子力規制委員会の「もんじゅ廃止措置安全監視チーム会合」に提出された資料に基づき春橋計算
注4:2022年10月24日の「第42回 監視チーム会合」では、第二段階で必要となる性能維持施設の考え方や保全方法に関する規制庁からの指摘に、機構が明確に回答できず、議論・確認を継続することとなった。
注5:原子炉内の非燃料体の内訳は、中性子集合体2体・サーベイランス集合体8体・制御棒集合体19体・摸擬燃料体246体・中性子遮蔽体316体
https://www.nra.go.jp/data/000377969.pdf
注6:2022年10月24日の原研機構の資料https://www.nra.go.jp/data/000407842.pdf
注7:「フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答」
https://plaza.rakuten.co.jp/haruhasi/diary/202210170000/?scid=we_blg_tw01