タンク容量の「タイムリミット」を改めて試算|【春橋哲史】フクイチ核災害は継続中㊳
東京電力・福島第一原子力発電所(「フクイチ」と略)で増え続ける放射性液体廃棄物(「汚染水」と略)の貯留容量が尽きる想定時期を取り上げたのは、第11回(注1)でした。
その際は「(2020年の汚染水の)月間平均増加量・約5100㌧」で、「貯留容量のタイムリミットは2023年1月末」という試算結果でした。それから2年以上が経過して、予測は良い意味で外れ、前提条件等も変わってきたので、「ALPS処理水・処理途上水」(本来は「相対的に低濃度の汚染水」ですが、便宜上、「処理水」と略)の貯留容量・貯留量を対象に、試算をやり直しました。
2022年4月末~23年4月半ばの「処理水」貯留量の増加量を基に試算した結果が「まとめ1」です。
連載・第11回では、汚染水全体の数字で試算しましたが、今回は、予測の確度をより高める為に、試算の対象を処理水に限定しています。
処理水を含む汚染水全体の貯留量・増加量の推移が「まとめ2」です。2022年の増加量は月間平均2600㌧でした。2020年に比べると約半減、2014~16年との比較では8割以上の減少で、隔世の感があります。
台風等の大量降雨が避けられたことに助けられている面が有るでしょうし、東電・経産省を手放しで褒めるつもりはありませんが、これは高く評価すべきでしょう。
汚染水の増加量を抑制する為に、これまで多くの工事・作業が実施されています。
タンクパトロールを含め、被曝しながら現場で働いて下さっている皆様に、国民の一人として感謝致します。
一方で、処理水の貯留容量は逼迫しつつあります。今後は益々厳しくなっていくでしょう。
このままでは「貯留容量が尽きる」ことが、処理水の海洋放出の主要な名目とされるのは必至です。
今後、処理水の増加量がどうなるのか予断を許しませんが、仮に月間平均増加量を2500㌧程度まで抑制できたとしても、2023年内には貯留容量は尽きます。台風等で汚染水が急増するリスクも有りますから「まだ〇カ月間は余裕がある」と楽観するのは危険でしょう。
では、打つ手は無いのかと言うと、そうでもありません。公開資料を基にした考察ですが、「時間を稼ぐ」方法は有ります。
2023年2月までに、フクイチではEタンクエリアのフランジタンク(ボルト締めタンク)の解体・撤去が終了しています(2基は残水処理の関係で使用中/注2)。Eエリアには1000㌧容量のタンクが49基設置されていました。今のところ、このエリアの具体的な跡地利用計画は公表されていません。単純に考えても、約5万㌧容量分のタンク用地が空いているのです(Eエリアのことは昨年9月の経産省への申し入れ(注3)でも指摘/尚、経産省の担当者は「Eエリアは空いてない・使用できない」とは回答していません)。
「Eエリアへの溶接タンク設置」が、今すぐに実施できる、唯一の方法だと考えられます。「時間稼ぎ」に過ぎないとしても、貴重な時間です。
貯留容量の逼迫度合いが高まりつつある現状では、当面の「時間稼ぎ」と、海洋放出以外の解決策を求める取り組み、これらをセットにして東電・経産省にパブリックプレッシャーをかけ続けることが重要でしょう。
本稿の最後に、連載36回(注4)で紹介した、固体廃棄物の分析に触れることをご容赦下さい。
4月5日に開催された第1回原子力規制委員会(注5)の議題1で、資源エネルギー庁の湯本啓市・審議官が「東京電力ホールディングス㈱福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた分析体制の整備に係る当面の対応について」と題した資料を説明しました。
その中で、廃棄物の分析に関する人材育成について、福島国際研究教育機構(F―REI)と連携し、①「放射能分析の人材育成研修プログラム」を立ち上げて23年夏頃から事業を開始、②より高度な分析人材を育成する研修を24年度から開始、の2点が説明されました(何れも要旨)。
今後、F―REIのWebサイト(注6)にこの件がどのように記載されるのか、注視していきます。
注1/汚染水貯留の「タイムリミット」(2021年2月号)
注2/
(「タンク解体」のチャートに基づく)
注3/2022年10月17日付の拙ブログ記事「フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答」
注4/分析すら追い付いていない固体廃棄物(2023年3月号)
注5/第1回原子力規制委員会の動画と資料
注6/