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【尾松亮】燃料デブリは放射性廃棄物ではない?(上)|廃炉の流儀 連載52

 福島第一原発では原子炉内外に広がった溶融燃料(いわゆる「燃料デブリ」)の取り出しが最難関の一つとなっている。取り出し着手時期は繰り返し延期され、仮に着手できてもごく微量の「掻き出し」程度にとどまることが明らかになっている。

 より根本的な問題は、本連載でも繰り返し指摘してきたように「燃料デブリとは何か」についての法的定義がないことだ。原子炉内外に拡散した放射性物質を含むガレキなどのうち、どこまでの範囲を「燃料デブリ」と認識し、通常のガレキとは違った取り扱いや保管を義務づけるのか、その範囲が全くはっきりしていない。今後仮に燃料デブリ取り出しに着手し、一定量の溶融燃料を含むガレキを取り出せたとしても「これは燃料デブリではありません」と言い張れば、溶融燃料を含まないガレキと同様に扱うことが法的には認められてしまうのだ。

 そして最近の国会質疑において、政府の恐ろしい本音が明らかになった。「燃料デブリは放射性廃棄物ではない」と政府が答弁で明言したのだ。(参照:第213回国会=常会=質問主意書質問第一五六号)

 「福島第一原発の燃料デブリは法的に放射性廃棄物と位置づけられているか」という質問に対して、政府答弁は「福島第一原発の燃料デブリは、溶融した燃料であり、核燃料物質及び核燃料物質によって汚染されたものであるため、東京電力が当該燃料デブリを廃棄しようとする場合には、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則第二条第二項第二号に規定する放射性廃棄物に当たる」というもの(傍線は筆者。以下同)。一見「放射性廃棄物」と認めたかのように読める。しかし「東京電力が当該燃料デブリを廃棄しようとする場合には」という条件が付いていることに注目してほしい。

 質問には続きがある。

 「原子炉から燃料デブリが取り出せない等の理由により事業者が燃料デブリを処分する計画を示さない場合、『処分』する計画のない原子炉内に残った燃料デブリは法的に『放射性廃棄物ではない』、という理解になるか」。この質問に対する政府答弁がすごい。

 「福島第一原発の燃料デブリは、東京電力が廃棄しようとしない場合においては、放射性廃棄物に当たらない」

 分かるだろうか。政府が明確に「東電が廃棄しようとしなければ燃料デブリは放射性廃棄物には当たらない」というのだ。燃料デブリを取り出さず、そのまま放置し、そこから汚染が拡散するなどの問題が生じても「放射性廃棄物を放置した」として東電の責任を問うことは、今の法制度ではできない。

 次に知りたいのが、処分する場合にこの放射性廃棄物は政府が最終処分までの責任を負う「高レベル放射性廃棄物」(いわゆる核のゴミ)なのか、という問題である。高レベル放射性廃棄物でないとすれば民間の処分場で埋め立てることになってしまう。この質問に対する政府答弁は「燃料デブリの処理及び処分の方法については、当該燃料デブリの取り出し開始後に性状の分析等を進めた上で決定することとしている」というもの。取り出して分析しないと「高レベル放射性廃棄物」なのかどうか分からないという。


 おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。



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