デブリの法的定義を②―【尾松亮】廃炉の流儀 連載24

 東京電力は今年(2022年)中に福島第一原発事故で溶け落ちた燃料デブリの取り出しを開始する計画である。しかし、そもそもこの「燃料デブリ」とは何なのか、日本では法的な位置づけが定まっていない。

 スリーマイル島原発事故(1979年)時の米国でも、チェルノブイリ原発事故(1986年)後独立したウクライナでも、当初は燃料デブリの法的位置づけは定まっていなか

った。両国では、事故炉廃炉政策を構築する中で燃料デブリの法的位置づけを定めると同時に、この特殊物質の扱いに関する政府の法的な責任を明確にしている。

 スリーマイルでは事故後約11年かけてデブリを取り出し、地域外へ搬出した。この際、燃料デブリを「政府の研究機関が管理すべき物質」と位置づけ、研究目的という理由づけでエネルギー省が引き取る形をとった。事故当時、米国の法制では燃料デブリを放射性廃棄物として分類する規定がなく、取り出し後の燃料デブリの貯蔵や管理については法的位置づけが曖昧であった。当初、スリーマイル運転事業者GPUは「敷地内での一時保管」方針を示し、原子力規制委員会(NRC)も了承していたが、立地地域(ペンシルベニア州)住民からの激しい反対により「敷地外搬出」方針に切り替わった。1981年にはNRCと連邦エネルギー省が覚書(MOU:memorandum of understanding)を締結し、スリーマイル2号機から取り出したデブリはエネルギー省の研究施設(アイダホ州)で引き取ることに決まった。

 それに対してチェルノブイリの場合、事故から35年経過した現在も燃料デブリの取り出しに着手できていない。それでもウクライナ議会は「国家廃炉プログラム法」(2009年)において燃料デブリ(燃料含有物)を「高レベル放射性廃棄物」と明確に位置づけている。そして「放射性廃棄物」たる燃料デブリが管理不能な状態で事故炉内部に残っている現状を、違法・規則違反状態としている。ウクライナ議会が100年以上を要する国家廃炉プログラムを法制化し、いまなお「石棺解体」「内部のデブリ取り出し・安全貯蔵」を目指し続けているのは、「デブリ=放置してはいけない放射性廃棄物」という法的な要請が背景にある。

 この二つの先例と比較して、福島第一原発事故後の日本では、燃料デブリの法的位置づけは極めて曖昧である。原発事故から約11年が経過した2022年現在、福島第一原発1~3号機の原子炉内(或いはさらにその外)に溶け落ちた燃料デブリに関して「政府の引き受け義務」や「放射性廃棄物としての位置づけ」を定めた法律・規則はまだない。メルトダウン事故により溶け落ちた燃料デブリが原子炉内外に「管理の及ばない状態で残っている」という状況について言えば、ウクライナも日本も同じである。しかし日本では、燃料デブリを「放射性廃棄物」と定義せず、現状を「違法・規則違反状態」とも認めていない。そのため政府や東電が計画を変更し、「デブリ取り出しをせずに工程を終了する」と決定したとしても、その行為の違法性を問うことは現状では難しい。

 微量の溶融燃料を含むガレキなども含め、燃料デブリを政府が最終処分まで責任を持つべき「廃棄物」として位置づける法整備が必要だ。

おまつ・りょう 1978年生まれ。東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学。その後は通信社、シンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども被災者支援法の政府WGに参加。現在、「廃炉制度研究会」主催。


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