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親不孝の始まりの「闇バイト」|【高橋ユキ】のこちら傍聴席10

 今年2月に南相馬市の70代男性宅に複数の男が侵入し、現金などを奪われた事件の、実行犯グループらの裁判が10月、福島地裁で開かれた。事件では9人が逮捕され、5人が処分保留で釈放となったが、4人は起訴されていた。

 その起訴された実行犯のひとりは公判で「彼女と遊ぶ金が欲しかった」と動機を語った。闇バイトを探すなかで「福島の老夫婦の家に侵入して金塊を奪ってくれば800万円もらえる」という誘いを受け、犯行に加担したという。この実行犯から「車を運転して福島に行けば50万円もらえる」と誘われ、もうひとりも犯行に加わった。

 ふたりを束ねる実行犯のリーダーには400万円の借金があり、別の人間に相談したところ、この〝案件〟を紹介されたのだという。実行犯リーダーは「クロサキ」と名乗る人物から秘匿性の高いメッセージアプリを通じて指示を受けて実行したと証言した。ちなみに被害者はその後、知人の頭を木刀で突いたとして8月に逮捕された。

 このように若者が高額報酬を求めるなか、闇バイトの〝案件〟を振られ、強盗や詐欺などの事件に加わる事案は後を絶たない。東京地裁で傍聴した詐欺罪の被告人も、ツイッター(現・X)で「裏バイト」と検索したのが、事件の始まりだった。

 Xで繋がった氏名不詳者と面接した被告人はその後、自分の免許証の写真や、実家の住所などを氏名不詳者に送付していた。それから秘匿性の高いメッセージアプリで詐欺の〝案件〟を持ちかけられるようになったという。「最初は債権回収だと聞いていた」というが、次第に違和感を持つようになった。だが、実家の住所を知られていることから、抜けることは憚られた。

 それでも一度「辞めたい」と伝えたところ、アプリを介して実家の写真とともに「実家を燃やす」というメッセージが送られてきたという。これに怯えた被告人は半月ほど、指示されるがまま、特殊詐欺の出し子や受け子を繰り返した。情報を掴んだ警察署から連絡を受けるやいなや、逃亡もしている。結果として逮捕された被告人、起訴されているだけでも被害額は1400万円、総額は2000万円を超えていた。

 「自分でも稼いだことのない金額の詐欺を積み重ねて、大きく膨れ上がっている……とんでもないことをしました」

 と語った被告人の取り分は、被害額のわずか3%。手元に入ったのは数十万円ではあるが、被害者らにとっては、大金を騙し取らたという事実があるのみだ。被害弁済は取り分ではなく、被害額で考慮しなければならない。お詫びの気持ちを示すため、被告人の母親や祖母が500万円をかき集めたという。裁判官はこの点について、被告人に強い口調で言った。

 「どうですか。あなたが金に困って儲けようとして、結局家族に大損させてるじゃないですか! 500万円を超える金額を用意、なかなかないですよ。家族がいないこともあるし、あなたのように家族がいても、被害弁済に協力してもらえないこともあるんです」

 高額報酬の謳い文句に釣られ、高齢者を騙し、祖母を悲しませた被告人。保釈後は償いのためか「高齢者の役に立つ仕事に」と、高齢者の安否確認のパートを始めたという。


たかはし・ゆき 1974年生まれ。福岡県出身。2005年、女性4人で裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。以後、刑事事件を中心にウェブや雑誌に執筆。近著に『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』。

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