横田一の政界ウォッチ⑫
ザル法の「被害者救済新法」
「これからもマインドコントロール下にある信者から高額献金を集め続けることができる!」といった旧統一教会の高笑いが聞こえてきそうな高額献金規制の法律案が岸田政権から出てきた。自民党の茂木敏充幹事長が11月18日、幹事長・書記局長会談で示した被害者救済新法の政府案概要(要綱)のことだ。
同時刻に開かれていた「野党合同ヒアリング(現・国対ヒアリング)」に出席していた「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」の阿部克臣弁護士は、配布された政府案概要のコピーを見てこう一刀両断にした。「これはもう一読して、旧統一教会には適用されないということがはっきり言えると思います」。
抜け道だらけのザル法と断じた理由はいくつもあった。一つが「寄付の勧誘に関する一定の行為の禁止」の要件に「霊感等による知見として、本人や親族の重要事項について、現在又は将来の重大な不利益を回避できないとの不安をあおり、又は不安を抱いていることに乗じて、当該不利益を回避するためには寄付をすることが必要不可欠であることを告げること」とあったこと。
「この『寄付をすることが必要不可欠であることを告げること』という行為を旧統一教会がやっていないので要件として厳しい。適用範囲が狭い条文になっている」(阿部氏)
普段やらない献金行為を禁止にしても意味がないということだ。
しかも「霊感等による知見として」の「霊感」を狭い意味で解釈され、現在の被害に適用できない恐れもあった。以前は先祖の因縁を語って恐怖や不安を与え、壺などを買わせる霊感商法が主流だったが、社会問題化した後、信仰に基づいて献金をさせる方法に変わっている。過去のやり方を禁じる一方で現在の手口は対象外にするというザル法の可能性大なのだ。阿部氏は、ヒアリング参加議員にこう説明した。
「現在は『世界統一国の実現のため』とか、『日韓トンネルを作る』とか教義に基づいて献金をさせる。正体を隠した勧誘をしてから献金をさせるまで段階を踏んで教義を植え付けていく。これが『霊感』に当たるのかは外れる可能性がかなりあるのではないかと思います」
もう一つが、献金に対する家族の取消権を「扶養義務等に係る定期金債権」と限定したこと。家族の扶養義務侵害の範囲でしか献金を取り消せないため、金額は月に数万円程度。阿部氏はこんな事例を挙げた。「1億円の財産があって5000万円を献金した場合、残りの5000万円があるから扶養請求権を侵害していないので(献金を)取り戻せない」。
旧統一教会への献金額が1億円を上回ることは珍しくない。野党がヒアリングに招いた中野容子さん(仮名)は80代の母親が約1億8000万円を献金したのを知って返金を求めて提訴。この日のヒアリングで被害体験を語った鈴木未来さん(仮名)も、親の献金は約1億5000万円であった。しかし既に扶養から外れた家族は政府案の取消権は使えず、仮に使える年代であっても桁違いに少ない金額しか取り戻すことはできないのだ。
いわゆるマインドコントロール下における献金(信者が自主的に何回も寄付)への規制に慎重な公明党に配慮したと疑われても仕方がない。河野太郎デジタル担当大臣(消費者担当相も兼務)が、献金規制を議論する検討会に抜擢したのは『マインド・コントロール』(アスコム)著者の紀藤正樹弁護士。いわゆるマインドコントロール下における献金規制の必要性をテレビ番組でも訴えていたのに、肝心要の部分が欠落したのだ。
安倍元首相銃撃事件で韓国教団への日本人の富の流出を規制する新法成立が緊急課題になったのに、岸田政権はザル法で事を済ませようとしている。与野党攻防の激化は確実だ。
よこた・はじめ フリージャーナリスト。1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた『漂流者たちの楽園』で90年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。
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