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【福島県・新型コロナ特集】県内有名ホテル・旅館で休業続出

首都圏〝コロナ疎開〟対策の側面も 


 新型コロナウイルスの影響を最も受けている業種の一つが「旅館・ホテル」だ。県内でも、宿泊を一時取りやめるホテルが出たり、温泉地を代表する旅館が休館に追い込まれる事態となっている。

 4月8日、郡山市のホテルハマツから取引先に「新型コロナウイルスの感染拡大への対応について」という文書が寄せられた。

 それによると、宿泊は当面の期間休業とし、館内のコーヒーハウスとステーキハウスは営業を続けるが、それ以外の和食、中華、バー・ラウンジは休業とする内容。今後は事態の改善が見通せるまで、今年度から来年度以降にかけて開催予定となっている大規模宴会の動向確認と地域内の情報収集、テイクアウト商品の販促活動を続けるという。

 この文書が送付される前、偶然、ホテルハマツに行っていたという経済人は、

 「あんなに人がいないハマツは初めて見た。駐車場も本当にガラガラだった」

 と語っていたが、経済県都・郡山を代表するホテルの休業は、それだけ経済活動が停滞している証しだ。

 ちなみにホテルハマツは、新型コロナウイルス関連の取材を一切断わ
っている。

 4月9日付の福島民友によると、県旅館ホテル生活衛生同業組合で加盟する約530の旅館・ホテルを調べ、157社から得た回答では、2~4月の宿泊キャンセルは8万1500件、損害額は30億円に上ったという。ただ「回答率30%」でこの数値なので、すべての旅館・ホテルが回答していたら、単純に宿泊キャンセルは27万件前後、損害額は100億円前後に上る計算になる。

 本誌も、某有名旅館が2~4月の宿泊キャンセルで1億円以上の損害を被ったという話を聞いており、事態は想像以上に深刻だ。

 こうした中、3月31日には福島市の土湯温泉で営業する向瀧旅館が公式サイトで、

 《当館は暫くの間休館と致します。皆様にご迷惑をお掛けし、大変申し訳ございません》

 と休館を発表した。

 4月上旬、向瀧旅館を訪ねると、すべての出入口が封鎖され、正面玄関には

 《誠に申し訳ございませんが、館内衛生環境保全のため令和2年3月31日(火)~5月1日(金)までの間、休館と致します》

 と書かれた紙が貼られていた。この紙にも公式サイトにも「新型コロナウイルス」という単語は一切出てこないが、休館の要因になっていることは言うまでもない。

 近所の土産物店に話を聞くと、

 「週末は少しだけ人通りを見掛けるけど、お客さんは全然来ない。コロナの影響はかなり深刻です」

 と力なくこぼす。

 土湯温泉観光協会によると、規模の大きな旅館は予約が入っている日は営業するが、それ以外は休業しているという。客がいなくても従業員を出勤させれば、その分の人件費は発生するし、水道光熱費の負担も大きい。だったら、いっそのこと休業した方が余計な支出を抑えられる、という判断が働いているわけ。一方で、家族経営の小さな旅館は休業せずに営業を続けているようだ。

営業継続自体がリスク

 ㈱向瀧旅館(佐久間智啓社長)は1923(大正12)年創業、1961(昭和36)年法人設立。資本金2600万円。民間信用調査会社によると、直近6年間の決算は別表の通り。震災・原発事故後、売上は大きく落ち込んだが、その後持ち直し、3年前から黒字に転換していた。

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1 向瀧旅館

 佐久間社長に、休業を決めた経緯などを聞くことができた。

 「当館は規模が大きく、お客様が来ない中で営業し続けること自体がリスクと言えます。休館は苦渋の決断でした」

 30人ほどいた従業員は、やむなく解雇したという。

 「従業員には、新しい道で生活再建してほしいと伝えました。先日、都内のタクシー会社が従業員600人を一斉解雇し、新型コロナウイルスの感染拡大が収まれば再雇用する意向を示していましたが、当館は現時点で再雇用を約束できる状況にありません」(同)

 向瀧旅館は震災で建物が大規模半壊し、約1年8カ月の休館を余儀なくされた。国のグループ補助金を活用し、金融機関が融資に応じてくれたことで再開を果たせたが、風評被害などの影響で売上回復は困難を極めた。

 「東京電力から賠償金は支払われたが、約1年8カ月の休館中については『営業していない期間は賠償の対象にならない』とされ、資金繰りは容易でなかった」(同)

 そんな向瀧旅館に転機が訪れたのが、インバウンド(外国人旅行客)の受け入れだった。

 「福島空港を発着するタイの連続チャーター便に着目し、ここ1年は着実に成果が挙がっていました。今年1月にはタイからの観光客受け入れルートを確立したばかりで、これで安定経営に持っていけると手ごたえを得た矢先に新型コロナウイルスの問題が起きて……」(同)

 2、3月はタイからの予約が2300件入っており、その他も合わせると予約は4000件あったが、すべてキャンセルになったという。

 もっとも、休館を決断する引き金は新型コロナウイルスばかりではなかったようだ。

 「昨年10月の消費税増税と、台風19号被害の影響も大きかった。このときも400~500件の予約キャンセルがありましたからね」(同)

 短期間のうちにここまで厳しい状況が重なれば、佐久間社長でなくても経営再建を目指す気持ちにブレーキがかかるのはやむを得ない。

 「政府はさまざまな支援策を打ち出していますが、雇用調整助成金の申請は煩雑だし、日本政策金融公庫が旅館を対象に設けた3000万円の融資枠も、規模が大きくても小さくても金額は変わらないので、旅館によっては使いにくい印象を受けます。そもそも事業者は、一時的になんだかんだと立て替え払いをしなければならないので、体力のある事業者は持ちこたえられても、体力のない事業者は無理です」(同)

 新たな融資制度も、無利子とはいえ借金には違いないし、返済期間が猶予されても、いつかは返済しなければならないから、融資を受けた瞬間、債務超過に陥る事業者も少なくないと思われる。

 「この厳しい状況がいつまで続くか分からないのに、さらに借金を重ねて大丈夫なのかと心配の方が先に立ってしまいます」(同)

 生き残るためとはいえ、結局、負債を増やしてしまう状況は「経営問題の先送り」という感覚が佐久間社長の中にはあるのかもしれない。

 現在、金策に奔走しているという佐久間社長。本誌が店頭に並ぶころには前述した休館期限の5月1日を過ぎているが、無事に再開を果たしているかは微妙だ。

 一方、郡山市の磐梯熱海温泉で営業するホテル華の湯も4月10日、他のグループ旅館(栄楽館、浅香荘)と共に同月13~30日まで休館することを公式サイトで公表した。

2 ホテル華の湯

 休館初日に華の湯を訪ねると、出入口は封鎖されていたが、館内の照明は一部点灯しており、ガラス越しに従業員が作業している様子が見て取れた。

 館内の人が、様子をうかがう記者の存在に気付き、外に出て来てくれた。増子浩之営業支配人だった。

 「4月30日まで休館としていますが、情勢が刻々と変化していることを踏まえると5月1日に再開できるかは未定です。予約キャンセルですか? もちろん相当数ありました」

 そう言って館内に戻って行った増子支配人だったが、関係者によると休館の理由は他にもあったという。

 「いわゆる〝コロナ疎開〟対策という面もあったのです。緊急事態宣言が出された首都圏から『1週間ほど宿泊したい』という申し込みが何件か入り、華の湯では対応に苦慮していたそうです。売上のことを考えれば長期宿泊はありがたいが、感染拡大を防ぐなら首都圏からの客は受け入れない方がいい。とはいえ、予約客が保菌者か否か確かめる方法はないし、面と向かって『首都圏の客はお断り』とも言えない。そこで、やむなく休館を決めた、と」(ホテル華の湯関係者)

 それまで7都府県への発令にとどまっていた緊急事態宣言は4月16日に全国に拡大され、感染者数が多い中央から少ない地方に人が〝疎開〟する流れは徐々に収まりつつあるが、休館によって感染拡大を食い止める社会的役割を果たそうとしたホテル華の湯の姿勢(客がいないのに営業しても経費倒れという側面の方がもちろん強かったと思われるが……)は褒められてしかるべきだ。

 いずれにしても、旅館・ホテルがそれぞれの立場で今後を模索していることが分かる。しかし、今はまだ踏ん張ることができている旅館・ホテルも、効果的対策を早急に打たなければ〝あきらめ倒産〟はますます増えてくるだろう。


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