【福島】無意味な内堀知事の海外出張
就任後5年間の旅費総額は約4000万円
内堀雅雄知事は10月6日から12日まで、ドイツ・ハンブルグ州、スペイン・バスク州を訪れる。風力発電の世界的な産業集積地である両州とエネルギー分野に関する連携覚書を締結し、人的交流や企業間の共同研究を促進する狙いがある。県のトップが直接足を運ぶことの意味はそれなりにあると思われるが、多額の旅費に見合った費用対効果が本当に得られるのか、疑問を抱く。
内堀知事は2014(平成26)年に就任して以来、たびたび海外出張に出かけている。地元紙などでその様子が報じられているが、そもそもそれらにはどの程度の費用がかかっているのか。県に情報開示請求を行って調べてみた。
県国際課の資料によると内堀知事は2014年以降、11回にわたり海外出張に出かけていた。行き先と経費は以下の通り(1000円以下切り捨て)。
①スイス・イギリス(2015年7月12日~18日)
内容=【スイス】在ジュネーブ各国政府代表や国際機関関係者へのセミナー・交流会の開催、再生エネルギー分野の先進的な取り組みの視察(水力発電所、原子力発電所)。【イギリス】福島庭園開園3周年式典出席、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)での講演、英国会議事堂内で交流会。
知事旅費額153万円、随行員7人、随行員旅費額432万円
②イタリア(2015年10月11日~14日)
内容=ミラノ国際博覧会内での「ふくしまウィーク」の開催及び参加、本県に関する正しい情報発信に向けて、ミラノ大学と協力し合うことを合意。
知事旅費額129万円、随行員7人、随行員旅費額366万円
③スイス(2016年1月20日~24日)
内容=世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)への出席、「ジャパン・ナイト」で県産日本酒をPRし、各関係者に顔写真付きのインビテーションカード(招待状)を配布。
知事旅費額116万円、随行員3人、随行員旅費額155万円
④タイ・マレーシア(2016年5月30日~6月3日)
目的=【タイ】現地の百貨店グループ関係者と会談してモモ20㌧輸出を合意、日本大使公邸で県主催観光交流会開催、タイ旅行代理店協会(TTAA)に情報発信や旅行商品づくりを要請。【マレーシア】ASEAN会合の開会式に出席、レセプションで招待状を配布。
知事旅費額44万円、随行員6人、随行員旅費額109万円
⑤アメリカ(2016年10月16日~22日)
目的=米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」で講演、米政府機関を訪問(国家安全保障会議、米国議会日本研究グループとの昼食会)、復興PRレセプション(県産日本酒・牛PR)、「ふくしまから感謝の夕べ」交流レセプション開催、国連本部・メトロポリタン美術館を訪問、野口英世墓所に献花、ワールドトレードセンター跡地を訪問。
知事旅費額115万円、随行員4人、随行員旅費額180万円
⑥ドイツ(2017年1月15日~19日)
目的=ノルトライン・ヴェストファーレン(NRV)州の環境相と再生エネルギー分野での協力に関する覚書更新、NRV州経済相と医療分野の覚書更新、NRV州首相と会談、バイオエネルギーパークで太陽光発電、風力発電、バイオマス発電の各設備を視察、サイバーダイン社訪問。
知事旅費額88万円、随行員6人、随行員旅費額198万円
⑦マレーシア・ベトナム(2017年8月22日~26日)
目的=【マレーシア】現地業者とコシヒカリ年間100㌧、モモ年間15㌧の輸出合意。【ベトナム】国家副主席と会談、ベトジェットエア航空と福島空港―ベトナム間観光チャーター便運航を合意、ベトナム航空定期便開設を要請。
知事旅費額56万円、随行員6人、随行員旅費額157万円
⑧アメリカ、ブラジル、ペルー(2017年10月18日~27日)
内容=【アメリカ】ロサンゼルス日本総領事館との共催で福島復興セミナーを開催、南カルフォルニア県人会と懇談会。【ブラジル】日本移民開拓先没者慰霊碑を訪問、ジャパンハウスでセミナー、ブラジル県人会の創立百周年記念式典に参加、サンパウロ州知事と会談。【ペルー】県人移住百十周年記念式典に参加。
知事旅費額119万円、随行員5人、随行員旅費額233万円
⑨イギリス・フランス(2018年3月21日~26日)
内容=【イギリス】福島庭園を訪問、「ふくしまプライド・ナイトinロンドン」で農畜産物と日本酒をPR、輸出業者とコメ40㌧輸出を合意。【フランス】県産のコメや牛肉などの試食商談会を開催、「FUKUSHIMA PRIDE by JYUNKO KOSHINO」の販路開拓。
知事旅費額113万円、随行員10人、随行員旅費額538万円
⑩アメリカ(2018年5月29日~6月2日)
内容=東京ガールズコレクションのイベントに参加、ワールドトレードセンターでレセプション開催、野口英世墓所に献花、NY酒店に開設された県産酒コーナー視察。
知事旅費額120万円、随行員7人、随行員旅費額284万円
⑪香港(2019年1月23日~26日)
内容=日本食を取り扱う業者と意見交換、香港領事館を訪問、香港華南地区県人会と交流会、メディア向けセミナーを実施。
知事旅費額33万円、随行員7人、随行員旅費額134万円
観光地は自費で行け
随行員とは知事に同行する県職員のこと。当然知事1人で行くことはないので、自ずと旅費総額は膨れ上がる。2014年以降の出張費は知事1090万円、随行員2792万円。合計で約4000万円に上る。
1回当たりの知事旅費額は約99万円、随行員1人当たり旅費額は約41万円。知事は飛行機のビジネスクラス、随行員はエコノミークラスを利用するため、料金に違いが出る。
ちなみに最も知事旅費額が高いのは2015年7月スイス・イギリスの153万円、最も低いのは今年1月香港の33万円。アジアは旅費が安く、ヨーロッパは高くなる。
こうして見ると、年2〜3回のペースで海外出張に出かけていることが分かる。
出張内容を整理すると、「視察」、「セミナー・交流会の開催」、「会議・会合への出席や講演」、「記念式典への出席」、「事業者との商談」の5つに分けられる。
「視察」は先進的な技術を実際に見ることによって今後の県政に生かすために行われる。「セミナー・交流会の開催」、「会議・会合への出席や講演」、「記念式典への出席」は、東日本大震災と福島第一原発事故の復興の現状と課題を発信するのが目的。「事業者との商談」は、県産農畜産物などの販路拡大や取引量・取引額を増大する狙いがある。
では、これらの目的が海外出張により達成できているかというと微妙なところであり、本誌は①行きたいなら私的旅行として自分のお金で行ってくれ、②そもそも知事が自ら海外に行く意味がない、③費用対効果が低い――と言いたい。
例えば、野口英世墓所への献花、ワールドトレードセンター訪問、メトロポリタン美術館訪問などの観光地が視察に組み込まれているが、県民の税金がなぜ観光地の視察に充てられなければならないのか。福島県に縁がある場所や復興のシンボルを訪れるのは大いに結構だが、自費で行くべきだ。
ダボス会議への出席やミラノ万博への参加、UCL・CSISでの講演、県人会式典出席などは、震災・原発事故のいわゆる風評被害の払拭と風化の防止を目的にしたものだ。内堀知事は海外出張でのこうした機会を通して「福島の光と影を伝え、支援と共感の輪を広げたい」とコメントしている。
福島の現状を世界に知ってもらおうという行動自体を否定するつもりはないが、わざわざ各国の要人に会いに行き、事故の現状を伝えるのが効率的だとは思えない。職員を派遣する形でもいいわけで、知事自身がその役を担う必要があるのか。海外で全く知名度のない内堀知事が安全・安心をアピールしてもそれほど効果はないのではないか。
そういう意味では、福島に縁のある有名人、あるいは海外の有名人で、福島に住んだり訪れたことがある人にアプローチし、アピールする機会を作るほうが効果があるだろう。
ちなみに、2015年10月のイタリア(ミラノ万博参加)出張は旅費額600万円と前述したが、風評払拭のイベント費用には5000万円以上支出されていた。今回の海外出張の情報開示は出張費のみで、行った先々でのイベント代などは含まれていない。出張費とそれに伴うイベント費も合わせると莫大な支出になる。
最近、韓国政府は福島県産などの農作物・生産物の輸入を拒否しているだけでなく、汚染水問題を執拗に取り上げている。いわば、嫌がらせだが、どうせ行くなら近くの韓国に行って福島の現状を知らせるべきではないか。
疑問が残る出張の成果
いわゆる風評被害の払拭という意味では、コメやモモの輸出量増加も成果として報じられることが多い。
県産農産物の輸出量の推移を見ると、震災前の2010年度152・9㌧から震災後の2012年度2・4㌧まで落ち込んだものの、その後徐々に回復し2018年度217・8㌧になった。海外出張による事業者との輸出量増大の合意も寄与しているものと思われる。そういう意味では成果があったと言えるが、そもそも農産物の輸出額は1億円にも届かない程度であり、「県内の農業復興を後押し」するまでには至っていない。
本誌5月号「農水省調査が示す〝風評対策〟の限界」という記事では、消費者よりもむしろ流通業者の方が県産農畜産物県の取り扱いに慎重になっていることを伝えた。それなら、まずは国内の販路回復を優先すべきだし、海外にPRするにしても、もっと市場・流通関係者に向けてPRすべきだ。
福島空港―ベトナム間観光チャーター便運航の合意を取り付けたのも一つの成果と言えるが、他方でインバウンド需要は全国ワーストクラスとなっている。観光庁が公開している2018年の都道府県別外国人延べ宿泊者数によると、福島県は約12万人で、47都道府県中40番目だ。当然その背景には原発事故による放射性物質への懸念があるのだろう。
都道府県別外国人延べ宿泊者数(2018年)
チャーター便を増やせば外国人観光客が増え、福島空港を利用する人も多くなるだろうという考えがあるのかもしれないが短絡的だ。本県にしかない資源を生かした魅力の底上げと、魅力をアピールするPR戦略が本質だ。
スイスのシャンシー・プニー水力発電所、ドイツのバイオエネルギーパークなどの再生エネルギー分野の先進的な取り組みを視察し、事業者との商談も積極的に行っているが、これもどこまで効果が上がっているか疑問だ。
福島県は2040年までに県内で必要なエネルギーと同じ量を、再生エネルギーで生み出す目標を立てている。視察が目標実現のためにどのように役立ったか、県に問い合わせたところ、以下のような回答が返ってきた。
「2017年1月に訪れたバイオエネルギーパークでは、藤田建設工業(棚倉町)の社長も同行していたのですが、その視察をきっかけに、同社はバイオマス設備を導入しました。県が仲介役となって成果を挙げたことになります」(県商工労働部産業創出課)
行政運営の基本を守れ
果たしてこれが成果と言えるのだろうか。それこそ知事ではなく、職員が行っても十分事足りたのではないだろうか。
ちなみに、前述の再生エネルギー導入率は2018(平成30)年度31・8%。あと20年で100%が達成できるようには感じられない。
直近の香港出張に関して言えば、震災・原発事故後、県産食品の一部輸入規制を続けているのを受けてPRに行っただけで、視察も無ければ成果もない。国家レベルでの決定に対し、県のトップが訪れPRしたり意見交換してもどうにかなる問題ではないだろう。唯一の救いは旅費がほかの国と比べて安いことだけだ。
こうして見ても分かる通り、知事の海外出張は費用対効果がそれほど高くないのだが、地元紙はそのすべてに同行し、しっかりリポートしている。記者の同行費用は県が負担しているわけではないようだが、海外出張に関する記事は一様に好意的で、出張の成果を強調する内容になっている。
権力者に対するチェック機能を果たすべき新聞が、権力者にすり寄っている印象は否めない。
新聞社には県から莫大な広告費が支払われているのに加え、貴重なニュースソースでもあるので、忖度してしまうのだろう。
3期12年宮古市長を務めた熊坂義裕氏に意見を求めると、こんな回答が返ってきた。
「国際化・グローバル化の進展の必要性・重要性は論を待たないし、世界の諸都市との友好も深めていく意義は大いにあるでしょう。しかしその実現のための方策は、知事自らが頻繁に海外に出向くことだけではありません。たとえ海外出張の成果が県民生活の向上に資する部分があったとしても、県政にさまざまな課題が山積する中にあって、知事が頻繁に海外に足を運ぶ理由にはならないと思います。そもそも災害などで地元が危機に陥った時に知事が不在だったら県民の不安・不満は大きいでしょう。代理可能な事柄なら極力代理で行うべきです」
「『最小の経費で最大の効果を上げる』のは行政運営の基本であり、やむを得ず知事が行く場合も、随行員は極力数を控える、不要な行程は組み込まないなどの配慮が必要です」
内堀知事はこの言葉を重く受け止め、海外出張の在り方を一から見直すべきだ。
HP
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