高齢者の年金支給額や医療費負担を改悪すると現役世代が消費を減らす恐れ
少子高齢化と財政赤字の進展で高齢者の社会保障費が議論されるようになった。年金支給額はすでに物価上昇に追い付かない仕様になったが、医療費負担についても現役世代と同じ3割負担が議論されるようになった。
文科省OBでパナソニック教育財団理事長の小野元之氏は教育情報誌で「国際競争力を高めるために教育研究予算を大幅に増額する必要がある」とし、その財源を社会保障費の削減、とりわけ高齢者の医療費負担にメスを入れるべきと説いている。
たしかに高齢者の医療費はかなりの規模になっており、後期高齢者分だけで15兆円に上っている。
しかし、医療費のうち公費負担は半分で、残り半分は保険料で賄っているため、削減分がそのまま教育研究予算に充てられるものでもない。
しかも、これから制度改変を行うと、その影響をもろに受けるのは現在の高齢者ではなく、これからの高齢者である。
特に就職氷河期以降は給与の中央値が1995年よりも66万円~135万円も下がってしまっており、現在の高齢者より蓄えが無いことが予想される。親の遺産でなんとか食いつなぐ老後が予想されるが、その親の蓄えを年金や医療費負担の改悪で減らしてしまうと、氷河期世代が高齢者になったときにやっていけない人が相当数出るのではないか。
となると現役世代は老後の生活が不安なので消費を抑えるようになるし、少子化も加速する恐れがある。
前述の小野氏は「米百俵」のたとえを用いて医療費を教育費へ、というものの、長いスパンで見ればむしろ予算や少子化対策の面でマイナスになる恐れがある。
医療費と教育費は先に述べた通り予算の建付けから異なるため、直結できる話でもない。
高齢者の社会保障費の問題はたしかに深刻ではあるが、現役世代が安心して消費できるための「保険」であることも忘れてはならない。